第8話 お隣

 日差しがきつい。


「日崎を説得して何とかしたいってのはわかりましたけど、何でそのお供が俺なんですか」

「お前が一番の適役だろ。なんつってもお前は、日崎のお隣さんだからな」


 隣り合う二軒の家を見上げる。


 一つはマイホーム、俺の家だ。じいちゃんが若い頃に相当な無茶をして買った、という話は何度か聞かされているから、築五十年は経っているはずだ。家を囲むブロック塀にしても外壁にしても、あちこちにひび割れがあるし、雨染みなんかもひどい。


 一方、その隣に立つ日崎の家は、大きさはそんなに変わりないものの、建てられてからまだ半年と経っていないために、どこにも汚れは見当たらないし、庭の敷石も、光沢のある玄関扉も、門扉も表札も郵便受けも、何もかもがきれいでやたらとおしゃれな気がする。


 だからといって、別に悔しくも何ともないけど。いや、ほんとに。


「家が隣だったら何だって言うんですか」

「お隣さんと仲良くしておくのは古き良き日本人の美徳ってもんだろ。昔はいろいろと交流があって当たり前だったらしいぞ。醤油の貸し借りだとか、近所の人で集まって一台のテレビを見たりだとかな」

「知らないっすよ、んな話……。まぁ、そりゃあ俺だって、できるもんならそうしたいですけど……」


 そういえば、前にも誰かから今のと似たような話を聞かされたような気がする。

 誰だっけ? あ、そうか。母さんだ。

 また嫌なこと思い出しちゃったよ……。

 あれは、入学式の次の日だった。

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