第64話 話し合いと封筒

 二人が学校に着くと、校門のところに雲浦が立っていて、挨拶のあと、すぐに、


「すべて私の責任です。本当に申し訳ございませんでした」


 と謝罪があったらしい。

 それから案内を受けて校長室へと通されることになって、宮火の母親の到着を待ったあと、校長と、教頭と、雲浦と、父と母と、宮火の母親、六人での話し合いが始められることになったのだという。


 最初に、校長から、昨日の事件の詳細について報告があって、いくつかの事実確認のあと、事件のことは、私と宮火、両方に非があった、という説明があったうえで、学校側の失態として、担任である雲浦の対応が遅れたこと、それ以前に、日頃からの学校の対策と指導が不十分だったとして、謝罪の言葉のあと、教頭と雲浦からも深く頭を下げられた、ということだった。


 次に、議題は宮火のけがについての話に移って、宮火の母親から、病院の診断書の提示と、現在の宮火の容体について説明があったらしい。


 宮火のけがは、顔の骨の骨折だったり、ひびだったり、歯が欠けてしまったり、というような状況らしく、今は入院していて、退院まではまだまだかかるだろうという話で、全治三カ月の診断を受けている、ということだった。


 その話を受けて、父と母が宮火の母親に謝ることになり、また宮火の母親も、娘が申し訳ないことをした、と謝ってくれたという。

 そんな感じで、ここまではとくに問題もなく、円滑に話し合いが進められていたらしい。

 ところが、では今回の一件をどのようにしておさめるか、という話になってから、一気に流れが変わり始めた、ということだった。

 話題を変えてしゃべり始めたのは教頭で、


「こちらといたしましては、どうにか穏便に、ことを荒立てることなく話をまとめていただければ、と考えておりまして、ですね……」


 と、そんなような感じで、どうにも歯切れの悪い話し方だったようで、内容を要約すると、学校としては、できることなら事件を公にしたくはない、という話で、まず宮火の母親に対しては、事件のことを警察に相談するのは控えてほしい、被害届は出さずにいてもらいたい、という申し出があって、次に、父と母に対しては、複数の教員が宮火の嫌がらせ行為、不良行為を把握しながらも、適切な指導を行わずに放置し続けたこと、それによって、何らかの事件が起こりうると予測できていながらも、未然に防ぐことができなかったことについて、教育委員会などには報告せず、問題にはしないでほしい、今回のことは、生徒同士の単なるケンカとして処理させてほしい、ということで、父と母、宮火の母親の前に、それぞれ一つずつ、二つの封筒が差し出されたらしい。


 父が封筒の中身を確認すると、一万円札が束になって入っていて、厚みから察するに、おそらくは二百万円が用意されていたのではないか、ということだった。


 父が、教頭に向かって、


「何の金ですか? これ」


 と聞くと、校長が口を開いて、


「お父さんだって、娘さんを犯罪人にはしたくないでしょう?」


 と言われたらしい。

 父はその言葉を聞くなりブチギレて、


「ふざけんなっ! 受け取れるか、こんなもん!」


 と封筒をテーブルに叩きつけて勝手に部屋を出ていってしまったのだという。

 母は、すぐさま父の非礼を詫びたあと、話し合いを続けるために父を呼び戻そうとしたらしいけど、部屋を出る直前、宮火の母親に呼び止められて、


「あの……、こっちのも、私がもらっていいですか?」


 と、たずねられたことで、その瞬間に母も、ここにはまともな人がいないのか、と失望して、


「お好きなようにしてください」


 と言い捨てて、そのまま父と一緒に帰ってきた、という話だった。

 まとめると、そんな感じだったらしい。

 なので母も、父ほどではなかったけど、相当に荒れていた。


 結局、学校側は事件のことで評判を落としたくない、父と母は私のことを守りたい、宮火の母親はお金がもらえるならそれでいい、という理由で、それぞれの利害が一致して問題はすべて解決、この話はもうおしまい、ということらしかった。

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