第27話 謎の電話

 コインロッカーを開いてスマホを確認すると、


『電話してこい』


 と、豊橋先生からメッセージが届いていた。

 濡れたトランクスはビニール袋に突っ込んで、制服に着替えてから、日崎との待ち合わせ場所まで歩く途中、電話をかける。


「日崎に代われるか?」

「いきなり、ですね」


 電話に出るときって、はい、とか、もしもし、とかって言うんじゃないのかな。どうでもいいか。


「無理か?」

「いえ、ちょっと待っててください」


 電話は切らないまま急いでさっきの場所まで戻ると、日崎は石の階段のすみっこに座って、何か作業中なのか、うつむいてカメラをいじっていた。

 日崎にスマホを差し出す。


「先生が、お前に話だって」

「あんたが聞いといてよ」


 日崎は二秒だけ顔を上げて、またカメラいじりに戻ってしまう。


「俺に聞いといてくれって言ってます」

「とても大事な話なんだと言ってくれ」

「めちゃくちゃ大事な話なんだってさ」


 もう一度スマホを差し出すと、日崎は嫌そうにしながらもしぶしぶスマホを受け取った。


「何ですか?」


 数秒の間があって、日崎がギロッとこっちをにらみつけてくる。

 何だよ。お前のその目こえーんだっつってるだろ。泣くぞ。泣き叫ぶぞ。

 その気持ちを察してくれて、ということではないんだろうけど、日崎は目線を海のほうに向ける。


「返してください」


 少しして、


「嘘じゃないですよね?」


 さらに少しして、


「どういうことですか?」


 今度は十秒くらいあって、


「それで、用件は何なんですか?」


 また十秒くらいあって、


「親には黙っててくれてるんですか?」


 少し間があいて、


「脅し、ですか?」


 ほんのちょっとあって、


「どれくらいの時間ですか?」


 またほんのちょっとあって、


「わかりました……」


 日崎が耳もとからスマホを離す。それと同時に深いため息をついた。


「あんたに代われって」


 日崎からスマホを受け取る。


「代わりました。何ですか?」

「お前。腹、減ってないか?」

「減ってます。けど、こういうとこの飯ってとにかく高くて……。焼きそば一杯で六百円ですよ? あんなのぼったくりっすよ」

「ふふっ。近くに、タダでうまい料理を出してくれる店があるって言ったら、行きたいか?」

「それ……、絶対やばいとこでしょ」

「そうじゃない。私の知り合いがやってる店だ。金は私が出してやる」

「マジっすか? おごりってことですか?」

「あぁ。地図送るから、日崎と行ってくれ」

「ありがとうございますっ!」

「月坂。七時頃に電話する。必ず出ろ」

「七時ですね。わかりました」

「話はそれだけだ。じゃあな」

「はい。失礼します」


 電話を切るなり、怒った顔で日崎が詰め寄ってくる。


「何の話?」

「先生が飯おごってくれるって」

「どういうこと?」

「知り合いの店が近くにあるんだってさ。そこ行けって」


 と、しゃべっている間に、スマホの着信音が鳴り出す。

 さすが先生。仕事が早い。

 画像を開いて地図を確認する。店は五百メートルくらい先にあるらしい。

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