第30話 晩ご飯

 テーブルに並べられた料理は、それはもう豪勢なものだった。

 マグロとかホタテ、イカの刺身に、エビとかかぼちゃとかの天ぷら、それと、キスって言うんだっけ? よく知らないけど、二十センチくらいの魚の塩焼き、ほかにも茶碗蒸しだとか、お吸い物だとか、なすびの漬け物だとか、見ているだけでよだれが溢れてくる。

 おじさんとおばさんも座布団に腰を落ち着けて、四人でテーブルを囲む。


「よし。食おう」


 おじさんが、ぱんっ、と音を鳴らして手を合わせた。

 同じく手を合わせる。もう待ちきれない。


「いただきますっ!」


 何から食べるか、なんて迷わない。まずはエビの天ぷらだ。

 欲望のまま思いっきりかぶりつく。

 サクサクの衣に、ぷりぷりで超肉厚なエビの食感、ふわっと鼻に抜けるいい香りに思わず目を見開いてしまう。

 うめえええーっ!


「このエビ! すごいっすね! めちゃくちゃおいしいです!」


 声がでかすぎたせいか、おばさんに小さく笑われてしまった。

 おじさんは鼻高々といった感じで、満足そうに笑う。


「当ったり前だろ。この俺がつくってやってんだからな」


 これはほかの料理も相当期待してよさそうだ。

 次はどれを食べようかなー。


「これだけの料理、用意するの、大変だったんじゃないですか?」


 日崎の質問におじさんが答える。


「まぁ、突然の話だったからなぁ。つっても、四人前くらいなら何とでもなるよ」

「豊橋さんから連絡が来たのって、何時くらいだったんですか?」

「ん? あー、何時くらいだった、あれ」


 おじさんは首をひねって、おばさんに話を振る。


「確か……、ね。三時くらいだったと思うけど」

「そうですか。ありがとうございます」


 マグロもうめー。これって大トロってやつなのかな。家で食べるマグロとは完全に別物だ。とても比較にならない。線香花火とダイナマイトくらい違う。

 恐ろしい……。これが海の町の本気ってやつなのか……。


「ねぇ。話あるんだけど」

「うん」


 隣から何か言ってきた日崎を適当にあしらってご飯をほおばる。

 うまいっ。このご飯だけでもすさまじくうまい。

 ふっくらもっちりしているし、一口、二口かむだけで力強い甘みを感じる。おかずと一緒に、じゃなくて、ご飯の味だけ楽しみたいって思えてくる。

 日崎は急に席を立つと、こっちの腕を掴んで無理やり引っ張ってきた。

 危うくずっこけそうになりながら、慌てて茶碗をテーブルに置く。


「わんだよ」


 何だよ、と言ったつもりだったけど、口の中がいっぱいでうまくしゃべれない。


「すみません。ちょっとだけ席、外します」


 日崎がおじさんたちに頭を下げる。


「お、おう……」


 おじさんもおばさんも、目を丸くしてあっけにとられている。

 わけがわからないのは俺も同じで、日崎に引っ張られるまま、箸だけを持って居間を出ることになってしまった。

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