第29話 民宿さいき

 ここで合ってるのかな、と若干不安になりながらも、とりあえずインターホンを押してみる。


「はい」


 女の人の声だ。


「あの、豊橋先生の紹介で来たんですけど……」

「どうぞ。お入りになってください」

「ありがとうございます」


 正解だったらしい。

 不審がる日崎と顔を見合わせる。

 そりゃあ俺だって怪しい気はするけど、ここまで来て引き返す、なんて選択肢はない。腹ペコだし。

 覚悟を決めて庭を進む。

 引き戸の玄関扉を開けると、五十代くらいのおじさんとおばさんが出迎えのために玄関まで出てきてくれていた。


「こんばんは」


 と頭を下げる。


「いらっしゃい」


 と笑顔で返してくれたおばさんの横で、一見こわもてなおじさんもとっつきやすそうな笑顔を見せてくれていた。


「おう。月坂君と、日崎ちゃんだろ? 陽子ちゃんから聞いてるよ」


 ようこちゃん? 誰だ?

 いや、そんなことより、


「あの、俺たち、お金用意してないんですけど……」

「大丈夫だ。全部聞いてる。腹、減ってんだろ?」

「はいっ!」

「すぐ用意してやるから。まぁ上がれや」

「ありがとうございますっ! お邪魔します!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る