第79話 仕事依頼

 七限目の英語が終わって放課後のチャイムを迎える。

 これからどうしようかな。

 いい天気だし、どこかに写真を撮りに行くのもありなんだけど、模試が近いから勉強もしておきたいし。あ、そうだ。お母さんの誕生日が近いんだった。プレゼント何にしよう……。


 気の早い子はもうとっくに教室を出てしまっているというのに、美咲はまだのんびりと板書の書き写しを続けていた。

 その手もとをのぞき込んでみる。相変わらず、これでもかってくらい見やすいノートだ。


「美咲。今日、何かある?」

「んー。何もないよ」


 やった。デパート行くの付き合ってもらおう。


「うちのお母さんもうすぐ誕生日でさー」

「あ、そうなんだ。いつ?」

「来週。そんでさ、何かプレゼント用意しなきゃなんだけど、どんなのがいいかな?」

「あー、迷うね、それ。去年は?」

「去年はねー……」


 そこで言葉を止める。

 英語の先生が教室を出ていくのと入れ違いで、豊橋先生が入ってくる。

 珍しい。

 何の用事だろう、と少し気になっていると、どういうわけか先生はまっすぐにこっちに向かって歩いてくる。目が合っている気がする。

 そこはかとなく嫌な予感。


「日崎。ちょっといいか?」

「何ですか?」


 普通に返事をしたつもりが、疑わしそうにしていたのが顔に出ていたらしい。

 先生は苦笑いをして言う。


「そんなに警戒しなくてもいいだろ」


 いいや、警戒すべきだ。先生がおしゃべりのためにわざわざ放課後の教室まで来るわけがない。きっと裏がある。


「面倒な仕事だったら断らせてもらいますからね」

「はっはっはっ。話が早くて助かるよ」


 先生が肩を叩いてくる。ひるむ様子もなく、まだ筆記作業中の美咲にも声をかける。


「土谷も一緒に来てくれるか?」

「はい。いいですよ」


 ノータイムで快諾してしまう美咲に力抜けする。

 まだ内容も聞かされちゃいないのに、もう……。


「その仕事って時間かかりますか?」


 小テストの採点を手伝ってほしいとか、どこかの部屋を掃除してくれだとか、そういった類の簡単な雑用なら別に構わないんだけど。


「先生?」

「んんー……」


 先生はなかなか返事をしてくれない。考え込むようにしてあごを触る。


「どうだろうな……。一瞬で片付いてくれれば私としても楽なんだが、そう簡単な話でもないだろうからな……」


 いよいよ怪しい。ゴールが見通せないってことは、それだけややこしい問題だってことだ。だからこそ私たちに話を振ってきているんだろうけど。ってことは、今日は買い物には行けそうにないかな。


「いろいろ考えるよりとにかくトライですよ。案外すんなりってこともありますから」


 美咲の明るい声に、先生が笑って頷く。

 仕事を押し付けられているっていうのにどうしてそんなに楽しそうにしていられるの。

 だけどまぁ、美咲と一緒なら何だっていいかな。

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