第44話 すすけた教科書

 翌日、翌々日と、宮火は二日続けて学校を休んだ。


 週が変わって、月曜日からはまた学校に来るようになっていたけど、休みの間に何かあったのか、宮火は額とあごの二カ所に絆創膏を貼っていた。

 だからって私には何の関係もないけど。


 同じ週の水曜日、三限目の音楽の授業が終わって音楽室から戻ってくると、なぜか大勢のクラスメイトが教室に入るのを嫌がっている様子で、廊下に集まって何か言い合っていた。

 そばで聞いていると、教室から変なにおいがする、焦げ臭い、といった話で、異臭が騒ぎの原因らしかった。

 そのうち、ちょっと変なにおいがするくらいでずっと教室に入らないわけにもいかないだろう、という話になって、度胸のある子が教室の窓を全開にしてくれて、さらにエアコンをつけて換気をすることになり、ようやく騒ぎは落ち着いた。


 教室に入ってみると確かに変なにおいがしていた。

 タバコのにおいに似ている気がする。

 やはり大多数の子がこのにおいを不快に感じているようで、きれいな空気を求めて、荷物だけを置いてすぐにまた教室を出たり、窓から顔を出して息を吸ったりしていた。


 自分もしばらく教室の外に出ていようと考えて、ペンケースと教科書を置きに机まで行くと、近くの床に、何か黒いゴミのようなものが落ちていた。


 小さいものだけど、いくつも落ちている。

 気になって、しゃがみ込んでよく見る。

 黒いビニールがちぎれたものかと思ったけど、違う。灰だ。

 黒いやつ以外にも、細かな白い灰も落ちている。

 嫌な予感がする。


 急いで椅子を押しのけて、机の中のものをすべて床にぶちまける。

 いくつかの教科書とノートの上に落ちた、国語の教科書、その表紙が半分以上なくなっていた。

 表紙に近いページはしわくちゃだし、ふちは黒く焼け焦げている。

 おそらくはライターを使って燃やしたんだろう。少しだけ燃やすつもりだったのか、途中で満足したのか、足で踏みつけて火を消して、そのあとで机に戻したとしか思えない。


 ただ一つはっきりとしているのは、これをやった犯人は宮火だということだ。

 宮火はさっき、音楽の授業中、トイレに行きたいと先生から許可を得て音楽室を抜け出したきり、そのまま戻ってこなかった。

 今も廊下にはいなかったし、どこにも姿はない。

 当然だ。今、宮火の体にはタバコのにおいがしっかりとついているはずだ。みんなの前に出られるわけがない。


 こんなのはもう、クラスの全員に対して嫌がらせをしているみたいなものだ。

 すすけた教科書を手に教室を出る。

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