第13話 露見
今さらもうどうしようもないかも、とは薄々思いながらも、日崎がバスを降りるまでは寝たふりでごまかして、わざとちょっとだけ遅れてバスを降りる。
と、歩道のわきで、日崎が腕組みして待ち構えていた。
冷たい目でこっちをにらんでくる。
うっわ、逃げたい。
極力目は合わせないようにして近寄る。
「何だよ」
「何であんたがバスに乗ってくんの?」
「いいだろ。バスに乗るくらい」
「何の用? ほんと迷惑なんだけど」
「別に何もないって」
「嘘ばっか。私のこと追いかけてきてるじゃん」
「そんなわけないだろ。俺もこのへんに用があるんだよ」
「どんな?」
「何だっていいだろ。お前に言うことじゃない」
「あくまでも偶然だって言いたいわけ?」
「そういうこともあるんじゃねぇの?」
「あんた頭おかしいの?」
「かもな」
「ふざけないでくれる?」
「別にふざけてるつもりはねぇよ」
「だったら本気でごまかせるとでも思ってんの? バカにすんな」
いらだつ日崎に気圧されて、また目線をそらす。
やばい……。
こいつ相手にこれ以上テキトーしゃべってたらまずい気がする。こうなったらだんまりだ。どれだけ責め立てられようが、黙っていれば何もわかるわけがない。
「どうせ豊橋に言われてやってんでしょ?」
「んなっ。えうっ……」
動揺しすぎて変な声が出てしまった。何でわかるんだよ。超能力者か。あと、先生のこと呼び捨てにすんな。
日崎がため息をつく。
「やっぱりね」
「えー、いやー、どうでしょうかね……」
「一つだけ言っとく」
日崎はぐっと顔を近づけてきて言葉をつなげる。
「これ以上つけまわしてきたら殺すから」
小声だけど、背筋がぞくっとするくらいすごみのきいた声だった。
日崎が背を向けて離れていく。
あー、おっかなかった。やっとまともに息が吸える。
けど、ああいう言い方をされても文句は言えない気がする。どう考えたって悪いのはこっちなわけだし。なんたってストーカーだし。
日崎は相当怒っているようで、早足で駅へと歩いていく。
ここからまだ電車に乗るらしい。いったいどこまで行くつもりなんだか。
警戒心むき出しで、日崎がちらっ、とこっちを振り返る。
行かねーよ。
あ、そうだ。と思い出してスマホを取り出す。
着信履歴から先生の番号にかけてみる。先生は一回目のコールで出てくれた。
「月坂か。どうだ?」
「はい。えーと、今、駅前まで来てるんですけど、あいつ、電車に乗るみたいです」
「電車? どこまで行く気なんだ?」
「さぁ……。わかんないっすけど……」
「わかった。とにかく日崎の目的がわかるまでは目を離すな」
「あのう、先生……。俺、やっぱもう解放してもらえないっすか?」
「どうした。ずいぶん弱気だな」
「それが、その……」
「何だ?」
「怒らないでくださいよ?」
「何だ。早く言え」
「実は……、先生に言われてやってんだろって見抜かれちゃいまして……。さっき、まだついてくるんだったら殺すって言われて……。それも結構マジな感じで……」
「状況は最悪だな……」
「すいません……」
「そうだな……。こうなったら、もういっそのこと小細工なしで堂々とつきまとってみるか」
「ええっ?」
「そのほうがお前も気が楽だろ」
「本気ですか? 俺、殺されちゃいますよ?」
「お前なぁ、ちょっと言われたくらいで逃げ帰っててどうする」
「いやいやいや、ちょっとって……」
「それに、遠出するのに行き先を親にも黙っている、というのは引っかかる。日崎が何を考えているのか知りたい」
「それもそうっすね……。じゃなくて! 先生の言うこともわかりますけど、きついんすよ、こっち。近くであいつににらまれるとマジで怖いんすから……」
「それはわからんでもないけどな……」
「これ、中止っていう選択肢はないんですかね?」
「ないな」
「ちょっ……」
即答過ぎる。
「どうにか頼む、月坂」
「けど……」
「頼む」
「はぁ……。わかりましたよ……。でも、もうちょいだけですよ?」
「すまん」
「んじゃあ、失礼します」
「あぁ」
電話を切って小走りで日崎のあとを追う。
完全に見失ってしまった。とりあえず駅のホームまで行こう。
小細工なしで堂々と、か。
まぁ、おばさんにも大見得をきったんだし、もう少しくらい頑張ろう。
そうだ。どうせあいつと一緒にいなきゃいけないなら、あの日の土谷の件を問い詰めてやってもいいかもしれない。
いつか言ってやろうと思ってたことだ。
あいつが本気で学校を辞めるつもりなら、もう会うこともなくなるだろうし、むしろちょうどいい機会なのかも。
とはいえやっぱり気が重い。また散乱した生ゴミでも見るような目でにらまれるのは確実だし、絶対にきつい言葉で罵られる。
半殺しくらいで済めばいいけど。あー、やだ。
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