第51話 九月一日

 一学期が終わって、夢のような、とてもとても幸せな夏休みも終わってしまって、憂鬱な九月一日を迎える。


 二学期に入っても、相変わらず宮火からの嫌がらせは続いていて、教室にいる間は、誰にも気づかれないようにこっそりため息をついては、時計の針に目を凝らして、あと少し、あと少し、と自分に言い聞かせながら、一日一日をどうにかしのいでいるような感じだった。


 ただ、夏休み中に何かあったのか、というか、その何か、が関係しているのかどうかすらもわからないけど、宮火は頻繁に遅刻をするようになっていた。


 二学期が始まって以降、朝のホームルームまでに宮火が席に着いていることはほとんどなくて、加えて、三日に一度くらいのペースで学校を休むようにもなっていた。

 おかげで、宮火と一緒にいなければならない時間そのものが減ったことで、一学期の頃と比べると、精神的にはかなり余裕を持って過ごすことができていた。


 それと同時にもう一つ、自分にとっては好都合だったのが、宮火の凶暴性が、輪をかけてひどくなっていたことで、ただでさえ大半のクラスメイトに恐れられて、避けられているような状況にも関わらず、それなりに仲の良かった、というよりも、半ば従わせていたような何人かの友達に対してまで、些細なことで怒鳴ったり、手をあげたりすることもあって、これまではほとんど自分ばかりがターゲットにされていた嫌がらせ行為を、見境なしに、だれかれ構わずしかけるようになったことで、相対的にこっちは無視されることが増えて、そのぶんだけ楽ができていた。


 ただし、その代償として、宮火のことは怒らせないようにしよう、逆らわないようにしよう、というピリついた空気が常に教室内を支配するようになって、息苦しさはより一層ひどいものになってしまっていた。


 たとえば、授業中に何か場が盛り上がるようなことがあったとき、先生が大声で注意をしてもみんなはなかなか聞こうとしないのに、宮火が一言でもしゃべり出すと、全員が静かになって宮火の話を聞く、というような調子で、そういった光景がクラスの日常になりつつあった。

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