第54話 ない

 部室に向かう頃には、すでに昼休みが始まって十五分近くが過ぎてしまっていた。

 今日はお弁当を食べたらカメラの手入れをする予定だったけど、また明日にしようかな。

 そんなことを考えながら、ポケットから部室の鍵を取り出す。

 扉に鍵を差し込もうとして、


「えっ」


 と思わず声が出てしまった。

 部室の扉がちょっとだけ開いている。

 佳奈ちゃんか先輩が来ているのかもしれない。いや、たぶん佳奈ちゃんじゃない。佳奈ちゃんだったらきちっと扉を閉めているはずだ。

 ほんと、いつだって適当なんだから、あの人は。


「せーんぱい」


 おどけて扉を開く。

 ところが部室には誰の姿もなかった。電気もついていない。

 あれ? と首をかしげながらも、いつもどおり、リュックからお弁当と水筒を取り出そうとしてはっとする。

 リュックがない。なくなっている。


 部屋の中を見回してすぐ、もう一つの異変に気がついた。

 ホワイトボードに何か書いてある。

 読みにくい、汚い字だ。誰かが走り書きしたみたいな……。


『あやちゃん教室きてはやく』


 目を見開く。

 何もかもほったらかして部室を飛び出す。

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