第37話 いいかな

 中学のときの話、してみたらどうだ。

 電話で豊橋に言われた言葉がよみがえる。

 豊橋の思惑どおりにさせるなんて癪だけど、自分じゃムカデなんてどうにもできないし、でもだからってほかにこのバカを引き止めておけるような方法も思いつかないし、しかたない。

 まぁ、でも、こいつならいいかな。


 これまでまともにしゃべったこともなかったのに、ひったくりからカメラ取り返してくれたし、お金貸してくれたし、ひどいことたくさん言ったのに、夜におばさんから聞いた話だと、一応、気にかけてくれてたみたいだし、今だって、本当はそんな義理ないのに、ぶつくさ言いながらでも帰らないでいてくれるし。


 きっとこいつだったら、面白がって周りに言いふらすなんてしない。仮にそういうふうになったとしたって、どうせ高校辞めちゃうんだったら、もう関係ないことだし、いくら家が隣同士でも、そうそう会うこともないだろうし。

 それに、もし……、もしもわかってもらえたら、受け入れてもらえたら、理解してもらえたら……。そうしたら、もしかしたら……。

 背中越しに話し始める。


「私、さ……」

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