第6話 名前は日崎綾

 俺のクラス、一年三組には一人、問題児がいる。

 名前は日崎綾。


 日崎が高校に通っていたのはたったの二十日間ほどだ。最後に学校に来たのは、たしか四月の終わり頃。その日、日崎は、授業中に気分が悪いと体調不良を訴えて保健室に行き、昼休みには早退した。それ以来一度も学校に顔を出してはいない。


 日崎が学校を休むようになって何日か過ぎた頃、朝のホームルームで豊橋先生は、日崎の欠席が続いている理由について、難しい病気を患ってしまったためにしばらく療養に専念することになった、と説明した。


 ほとんどの生徒は、日崎と知り合ってからまだ日が浅いということもあって、とくに驚いた様子はなかったけど、


「お見舞いはできますか?」


 とたずねた土谷に向けて、先生は、


「今は難しいな。病状が安定してからのほうがいいだろう」


 と首を横に振った。


 それからは席替えがあっても、日崎の机だけは、窓側最前列の位置に固定されるようになった。それ以外の場所ではどうしても空席が目立ちやすいし、かといって最後尾にしてしまうと、仮に日崎が出席するようになってまた授業中に体調を崩してしまった場合、先生や周りが気づきにくいだろう、という理由からの配慮らしかった。

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