第40話 宮火ゆうか
二年に進級して、写真部に新入生を勧誘すべく走り回るも空振り続きで、ただの一人も新入部員を加えられないままゴールデンウィークが明けてしまって、それから二日が過ぎた日の朝だった。
登校して、いつものように自分の下駄箱を開くと、そこにあるはずの上履きがなくなっていた。
不思議に思いながらも、職員室で事情を説明して、来賓用のスリッパを借りてから教室に向かう。
上履きがなくなった理由なんて深く考える気も起こらなくて、誰かがうっかり間違えて使っているのかも、と思ったり、また先輩が何か悪だくみしているのかも、なんて疑ったりしながらも、このまま見つからなくたって、最近は少し窮屈になってきていたし、新しく買い換えるのもありかも、というくらいの感じで別に何とも思わなかった。
だけど。
放課後、当番で教室の掃除をしていると、たまにしゃべるくらいの関係の、同じく掃除当番だった女の子にそっと声をかけられた。
「日崎さん。あの……」
「あ、ごめん。邪魔だった?」
「ううん。違くて……。その、上履きのこと、なんだけど……」
普段からもおとなしい印象の女の子だけど、今はさらに声が小さい。
顔を寄せると、女の子は、その小さな声をぐっと抑えて続ける。
「あの……、これ、私が言ったって、言わないでほしいんだけど……」
「うん」
「一階のトイレ、探してみて」
「えっ?」
「宮火さんがね、朝、何かしてたの私、見てて、それで……」
「嘘でしょ……。マジ?」
「ごめんね……。黙ってて……」
「ううん。ありがとね」
「ほんと、ごめんなさい……。それだけ……」
女の子は申し訳なさそうに頷くと、周りの目を気にしてか、すぐに距離を取ってほうきを動かし始めた。
宮火ゆうか。
二年に上がってから一緒のクラスになった女の子だ。
一年生のときには顔を合わせたこともなかったし、今だって、ろくに挨拶を交わすこともないくらい薄い付き合いなのに。
どうして宮火さんが……。
教室の掃除を終わらせてすぐ、一階のトイレに急いで、一番奥の用具入れのドアを開けてみると、そこには自分の上履きが転がっていた。
ただ、水で濡らされていたりだとか、汚されていたりだとか、ひどいいたずらがされていたわけではなかったから、その場でスリッパから履き替えたあとは、いつもどおり写真部に向かうことにした。
何も楽しい話じゃないし、言ったところでしかたのないことだから、佳奈ちゃんにも先輩にも、上履きを隠されたことは黙っていた。
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