第49話 放課後になったら

 それからは、嫌がらせを受けることのないように、また、嫌がらせをされたとしても被害を最小限に抑えられるように、いろいろと対策を立てることにした。


 まず一つに、下駄箱は使うのをやめた。

 上履きは自分で管理するようにして、登校のときには、リュックから上履きを取り出して、代わりにスニーカーは袋に入れて、そのまますぐに教室に向かうのではなくて、まずは写真部の部室へ行くようにした。


 荷物はすべて置いて、スカートのポケットにシャーペンと折りたたんだルーズリーフを突っ込んで、手には午前の授業で使う教科書だけを持って教室に向かうようにした。

 これならリュックに何をされる心配もないし、いつでも机の中は空っぽなんだから、宮火からの嫌がらせをかなり限定できるだろうと考えた。


 昼休みには部室に戻って、お弁当か、登校の途中に買ったパンで昼食を済ませて、昼休みが終わるぎりぎりまで部室で時間を潰してから教室へと戻るようにした。


 佳奈ちゃんと一緒にお昼を食べられなくなってしまったのは寂しかったけど、カメラの手入れをしたり、本を読んだり、スマホでゲームをしたり、部室に一人でいる時間は、それはそれでとてもリラックスできたし、それを苦しいとは感じなかった。


 ところがそれだけ対策をしていても、なお宮火は、嫌がらせをしなければ気が済まないようで、ゴミを投げつけてきたり、体育の授業ではわざとボールをぶつけてきたり、ただすれ違うだけでも、わざわざ近づいてきて足を踏みつけようとしてきたり、肘打ちをしてきたり、うざいだの死ねだのと汚い言葉を吐いてきたりと、そんな感じの執拗な嫌がらせがほぼ毎日のようにあって、よほど我慢ならないときには、こっちからも強い言葉で言い返したり、にらみ返したりしていたけど、当然ながら、そんなことくらいではほとんど一時しのぎにもならなくて、そういった状況に追い込まれないために、極力宮火を刺激することのないように、授業中は挙手も発言も控えて、体育ではソフトボールやバレーボールなんかの球技をやる日には見学をして予防するようにした。


 そうして次第に、授業中も休み時間も常に宮火のことを観察して、様子をうかがって、いかにして宮火から距離を取るか、向こうの視界に入らないようにするか、そんなことばかりを考えて行動するようになっていった。


 宮火のせいで、学校に行くのがつまらない、つらいと感じることは多かったけど、それでも、だったらもう学校を休んでしまおうという思考にいたらなかったのはすべて、佳奈ちゃんと先輩が近くにいてくれるおかげだった。


 放課後になったら佳奈ちゃんと先輩に会える。

 部室に集まって、とりとめのない話をして思いっきり笑える。

 放課後になったら。放課後になったら。放課後になったら。

 その思いだけが宮火の存在をはねつけてくれていた。

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