第69話 帰路
玄関先で、豊橋先生と日崎と、三人で横並びになっておじさんとおばさんに頭を下げる。
日差しがきつい。今日もまたカンカン照りだ。
車の中での席順は、車酔いしにくいからという理由で日崎が助手席に座ることになった。
出発してすぐは、民宿のご飯がすごくおいしかったとか、海がきれいだったとか、おじさんとの将棋で負けまくったとか、いろいろと話すこともあったけど、日崎はほとんど黙ったままで、まともに会話にまざろうともしないし、だからって日崎の中学の話はできるわけないし、そんなこんなで、二十分もしないうちにネタ切れになってしまって、車が高速に入る頃にはしーんとする時間が増えていた。
暇だ。笑えるような話題もないし。小声で先生に聞いてみる。
「あのー、先生。すいません。俺、寝ててもいいですか?」
「いいわけあるか。寝たら殺す」
「えうっ。大丈夫です……」
「冗談だ。眠いなら寝ろ。ただし、いびきはかくなよ」
またそうやってめちゃくちゃ言うんだから。
「一応は頑張ってみますけど……。あんまりうるさかったら起こしてください」
「よし。そのときはシガーライターでこに押しつけてやる」
「いや、ちょっ……。それはさすがに勘弁してくださいよ」
「アホか。いちいち本気にするな」
「とか言って、先生の場合マジでやってきそうなんだよなぁ……」
「何だ。今やってほしいのか?」
「ぐー。すぴー」
「日崎。準備してくれ」
「はい。これですよね?」
かちっ、と日崎がシガーライターを押し込む。
「ちょいちょいちょいっ! 何でお前はこんなときだけノリいいんだよ。もういいから! いい加減にしろ! まったく……」
「ちっ……」
「聞こえてんぞ! 舌打ち!」
眠気が吹っ飛んじまったろーが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます