第23話 どこで降りる
背筋を伸ばしてフロントガラスからの眺めを楽しむ。
といっても、そこから見える景色は、家があって、アパートがあって、田んぼがあって、ちょこちょこ店があって、たまに低いビルがあって、という感じで、自分のとこの町とさして変わらないような気がしないでもないけど、それでも、まったく知らない土地に来ているんだと思うと、とても落ち着いてなんかいられない。
日崎はというと、通路を挟んだ反対側、二つ後ろの一人掛けシートで頬杖をついて窓の外を見ていた。どうでもいいけど、あのポーズがお気に入りらしい。
赤信号で止まるまで待ってから、運転手さんに声をかけてみる。
「あのー、すいません。ちょっと聞いてもいいですか?」
「はい。どうぞ」
「このへんに来るのって初めてなんですけど、おすすめのとこって何かありますか? 観光名所とか」
「んんー、観光名所かぁ。お寺とか、合戦の跡地が見たいって人はときどきいらっしゃるけどね」
「あー……。できたら、もうちょっと楽しそうなとこで、どっかないですか?」
「そうだなぁ。自慢できるものってなると、やっぱり海かな」
「海! きれいですか?」
信号が変わって、運転手さんがバスを動かし始める。
「そりゃあきれいだよ。真っ青で透明度が高いし。今は、まだちょっと早いけど、毎年お客さんでいっぱいになるからね。臨時バスも出るし」
「へえー。そうなんですね」
後ろに体をひねって、改めてバスの中を見る。
今のところ、ほかの乗客は主婦っぽいおばさんとおじいさんとおばあさんが合わせて七人いるだけだ。でもこれが、来週か再来週くらいにはぎゅうぎゅう詰めになって、とてもこんなふうにゆったり座ってはいられないんだろうな。
シートから身を乗り出して、斜め後ろの日崎に声をかける。
「日崎、日崎。どこで降りるんだ?」
「前、向いてなよ。危ないから」
「教えてくれたらそうする」
「はぁ……。明野浜」
すぐにもう一度運転手さんにしゃべりかける。
「俺たち明野浜で降りたいんですけど、そっから海まで歩いて行けますか?」
「ははっ。もちろん。ビーチまで二分もかからないよ」
「マジですか! やった! じゃあ、ぜひ行ってみます!」
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