第32話 ものぐさ

 居間に戻ると、おじさんもおばさんも不思議そうな顔をしていたけど、何の話をしていたのか、とは一つも聞かれなかった。

 聞かれたところで、自分もいまいちどういう話だったのか意味不明だったから、それはそれでありがたかったけど。

 そんなことより飯、飯。

 ご飯のおかわりをもらって、料理をすべて平らげて、デザートにスイカまで用意してもらって、腹はもうパンパンに膨れてはちきれそうだった。


 座っているのもきつくて、おじさんに断ってから畳に寝そべる。一ミリも動けない。

 先生から約束の電話がかかってきたのは六時五十分頃だった。


「もしもし」

「日崎に代わってくれ」

「またそれですか」

「何だ。私としゃべりたいか?」

「いや、そういうんじゃないですけど……」

「飯はどうだった? もう食い終わったか?」

「はいっ。すっごいうまかったです。とくにエビの天ぷら……」

「よかったな。もういいだろ。日崎と代われ」

「だあっ……。わかりましたよ、もう……」


 日崎は空になった食器を台所に運んだりテーブルを拭いたりして、おじさんたちと一緒に後片づけを手伝っていた。

 おじさんは、客なんだから休んでろ、と言ってくれたのに、日崎はどうしてもその言葉をそのままの意味には受け取れないでいるらしかった。

 そういうわけで、寝転がってぐうたらしているだけの人間が気に障るらしく、ときどき向けられる軽蔑の眼差しが胸に痛かった。

 ちょうど台所から戻ってきた日崎に、腕だけを伸ばしてスマホを差し出す。


「日崎。先生から」


 日崎はキレているようで、無言でスマホを奪い取ると、かたんっ、と障子戸を鳴らして出ていってしまった。

 だって食い過ぎで動けないんだから、しょうがないだろ。

 あぁー。幸せ。

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