第56話 体の震え

 顔をうつむけて廊下を走る。

 誰の、どんな視線も、恐ろしくて怖くて、とにかく誰にも見られたくなかった。

 どこだっていい、ひとりになりたい。

 頭にあったのはその思いだけで、わき目も振らずにトイレへと逃げ込む。

 鍵をかけて、壁にもたれかかって息を潜める。


 あっという間に、ほかのクラスの子たちにも騒ぎのことが知られてしまったようで、外はほとんどパニック状態になっていて、誰かの大声だったり、せわしない足音だったりがひっきりなしに響いていた。


 耳をふさいでしゃがみ込む。

 体の震えが止まらない。

 なんてことをしてしまったんだろう。


 宮火は死んじゃったんだろうか。

 出ていったほうがいいのかな、きっと、みんな探してるんだろうな。

 今、出ていったら、人殺しって糾弾されるのかも。でも、このまま出ていかなかったら、きっともっと言われる。

 だけど、じゃあどんな顔して教室に戻ればいいんだ。

 出ていけるわけない。そんなの無理だ……。


 うじうじと悩んでいる間に、昼休み終了のチャイムが鳴り出す。

 そうして五限目が始まってしばらく経った頃には、もうすっかり騒ぎはおさまっていて、廊下はとても静かだった。


 恐る恐るトイレを出る。

 それでも、教室に戻る、なんてことはできるはずもなくて、こっそりと、誰にも気づかれないようにして家に帰ることにした。

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