俺は結構満喫した高校生活を送っていたはずだったのに
俺はごく普通の高校生だった。
学校の成績はよくもなく悪くもない。
運動神経は抜群なほうで、体育大会では毎年よい成績を残している。
所属しいるのは中学のころから剣道部で、高校でも所属していた。
部活ではちょっと厳しい先生と先輩はいたけれど、それなりに楽しく友達と過ごしていた。
彼女?
もちろん、好きな女はいたさ。
同じクラスメートだった嘉納真弓っていう女の子で新体操部に所属していた。
それなりに仲がよかったし、けっこういい雰囲気になることもあったのだが、どうしても告白できなかったのは彼女が俺よりも身長が高かったことがネックになっている。
別に彼女がものすごく長身ということではない。どちらかというと俺が小柄なせいだ。
故に告白できないまま、友達として一年という月日が流れていた。
そんなある日、彼女の幼馴染みの先輩が、じつは別の女と付き合っているということを知った。その女はその先輩と中学時代からの付き合いらしくて、真弓とも仲よくしているらしい。
それは本当なのか。
そうなっていくと、ますます真弓が先輩のことをどう思っているのか気になるわけだ。
俺の口からいえないからと、友達にそれとなく聞いてもらった。
すると、彼女はあっさりと先輩とはただの幼馴染みといいきったのだ。
これはチャンスかもしれない。
でも、俺の方が低い。
まゆみは身長の低い俺のことを好きになってくれるのだろうか。
俺は友人の啓介に相談した。
すると、「大丈夫と思うぞ。ぜったいに嘉納だってお前のこと好きだと思うぞ」とあっさりと答えてくれた。
一体、なにの根拠でいっているのだろうか。
それでも、満面の笑みを浮かべる友人の言葉を信じることにした。
そういうことで俺は勇気を出して告白した。
すると、彼女は驚いたような顔をした。
「えっと。その......」
戸惑う彼女の様子に俺は少し不安を覚えた。
「私もです。私もずっと××くんのことが好きでした」
マジ?
マジで
俺のテンションが上がったのはいうまでもない。
「これから、真弓ってよんでいいか?」
「いいよ。じゃあ、私は××くんってよぶね」
そうそう××くんって
あれ?
なんていった?
俺の名前をなんて読んだの?
「どうしたの? ××くん。そう呼んじゃだめだったの?」
いや、そうわけじゃないんだ。
なんか聞こえないんだ。
君が俺を呼ぶ名前が
「はあ? 意味がわからないわ。じゃあ、よんであげない」
そういって、彼女は俺に背を向けてあるきだした。
違うよ。違う。
まってくれよ。
まゆみ
彼女との距離はだんだんと遠くなっていく。
だめだ。
いっちゃだめだ。
どうしてこうなってしまったのだろうか。
カチン
なにかがしまる音が聞こえた。
気づけば、彼女の姿が消えて目の前には鉄格子があった。
ここはどこだ?
なぜここに俺がいる?
意味がわからなかった。
「はーい。いらっしゃいませえ」
すると、どこからともなく声が聞こえてきた。
振り向くと、そこにはひとりのピエロの姿があった。
「だれ?」
「はじめまして。君は先程死にました」
「へっ?」
突然、何を言い出すんだ?
俺が死んだ?
だってさっきまで学校にいたじゃないか。まゆみに告白してオッケーもらっていたじゃないか。
「おやおや。忘れたのお。ほーら、ちゃんと思い出してください」
そういわれて、記憶を思い起こしていく。
そして、ようやく思い出した。
まゆみに告白してオッケーをもらったあと。
浮かれ気分で学校から帰っていたときに、突然トラックが突っ込んできたんだ。
「ようやく思い出した。そうだよ。君は死んだんだよ。トラックに跳ねられて死んで、ここにやって来た」
ピエロは俺を指差した。
「それでねえ。なんていうか、君は選ばれたわけよ」
「選ばれた?」
「そうそう。異世界へいく権利をね」
「異世界?」
どこかで聞いたことのあるフレーズだ。
よくライトノベルなんかである異世界転移というやつか。
「そうそう。そうだよ。ものわかりいいねえ」
「なぜ。俺が異世界に?」
「あれれ? 興味ないの?」
興味がないわけじゃない。むしろ、ありありだ。
ライトノベルとかゲームとか好きだから、そういう異世界転移なんてあったら面白いかなあと思っていたぐらいだ。
けど、常識では考えられることではない。
「ふふふふ。でしょ。楽しそうでしょ。でもねえ。異世界にいくにはひとつ条件がある」
「条件?」
「名前。君の名前はいただいたから。異世界に送る代わりに僕は君の名前をここに封印する」
そういいながら、ピエロは宝石箱を俺に見せた。
特になにか豪華な装飾が施されているわけではないシンプルな手のひらサイズに宝石箱だ。
名前を封印する。
どういうことなのかピンと来なかった。
ただきょとんとしていた俺をピエロが不適に笑う。
「これが条件だ。君は異世界にわたり、この宝石箱を探す」
「はあ?」
「まだ、よくわかっていないようだね。ちなみに僕は君の名前を奪った。だから、君は自分の名前を思い出せないはずだ」
そういわれて、俺は自分の名前を思い出そうとする。
けれど、思い出すことができない。
「思い出せないだろう。それは君の名前をここに封印したからさ。早く取り戻した方がいいよ。君の記憶は君の中からも君の大切な人たちのなかからも消えていくからねえ」
「はあ? なんだよ。それ。意味わからねえ」
「フフフフ。これはただのゲームだよ。プレイヤーに君を選んだだけさ。早くしないと君の記憶はどんどん消えていく」
ピエロの姿が突然消えた。
「おい。こら。勝手なことをいって消えるなよ。こら」
俺が一歩踏み出した瞬間、突然俺の真下に穴があき、そのまま真っ逆さまに落ちていった。
「探してね。ちゃんと宝石箱探してくれよ。その時はちゃんと鍵師もつれてくるんだよ」
どこからともなく響くピエロの声を危機ながら、意識が遠退いていった。
「おーい。大丈夫か?」
次に目を覚ましたときには、見知らぬ洞窟の中で、ひとりの少年が俺に話しかけていた。
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