ドラゴンを連れた鍵師と史上最弱なパーティーの仲間たち

野林緑里

ドラゴンを連れた鍵師はパーティーを組みました

「はじめてですか?」


「はい。冒険者になったばかりです」


 最近、冒険者になったばかりのアイシアは緊張した面持ちで、ギルドの扉を叩いた。


 ギルドはアウルティア大陸にある遺跡を調査する冒険者たちにさまざまな情報を与える組織だ。


 ここシャルマン王国は、ギルドの総本部があり、大陸きっての冒険者の集う国である。


 ゆえに総本部のある首都ステラには、多くの冒険者たちが集い、なにか情報がないかと本部に集まってきている。


 先日ようやく冒険者に免許をとったアイシアが、はじめての冒険に挑もうとしている。


「お一人ですか❓」


「はい。ひとりではだめですか?」


「いいえ。ひとりでも冒険はできますが、初心者にはパーティーでの冒険をおすすめしております」


 受け付けの言葉にアイシアは困惑した。


 そう言われてもパーティーなんて作れない。


 アイシアの故郷はこのステラから離れたいなか町。


 冒険者の免許を地元でとって、単独で首都まで来ているものだから、冒険者の知り合いなどいない。もちろん、地元の友人を誘ってみたけれど、冒険者にはまったく興味ないと断られてしまい、一人でくることになったのだ。


 ひとりでもいけるかと息巻いていたのだが、そうはいかないらしい。


「いないようであれば、紹介させていただくこともできますが……?どうしますか?」


「それじゃあ、お願いします」


「では、掛けてお待ちください」


 アイシアは受け付けにいわれたとおり、ホール内にある長椅子に腰かけて、ホール内を見回した。

 ギルドの受け付けホールにはさまざまな人がいる。

 剣士に魔法使い、賢者。


 人間種族のみならず、エルフやドワーフといった精霊種族もいる。


 かつては、人間種族と精霊種族の間には隔たりがあったらしいのだが、いまはともに同じ土地で共存している。なかには異種族同士で婚姻を結ぶというの珍しくもない。


 種族の隔たりもなく、お互いに会話を弾ませている。


 この中の誰かとパーティーを組むことになるのだろうか。


 自分は仲良くやっていけるのだろうか。


 どちらかというと人見知りのアイシアには不安でたまらなかった。


 それでも、自分で冒険者になると決めて、ステラまで来たのだ。人見知りなんてしている暇はない。

 ひとりで遺跡に挑むという手もないわけではなさそうなのだが、最初からそれをする勇気もない

 帰ろうか。


 でも、いまさら戻れない。

 

 冒険者として活躍できないままで家へ戻れるはずがない。


 アイシアはある背中を思い出す。同時に病弱な姉の姿。心配そうな顔をしながらも見送ってくれた両親の姿。


(見ててよ。絶対に立派な冒険者になるんだから)


 


「おいおい、嬢ちゃん。君ひとり?」


 すると、だれかが話しかけてきた。

 顔をあげると、武装した男が三人。

 ニヤケながら、アイシアを見下ろしていた。

 三人とも武器を持参しており、ごつい体つきをしている。

 目も鋭い。

 どうみても、善良な人たちには見えない。


「もし、ひとりなら俺たちと組まないか?」


 口調は優しい。

 けれど、その目はなにか良からぬことを考えているのはわかる。

 それに周囲の人たちもいかにも嫌悪に満ちた目を向けている。


「またあの人たちやっている」


「かわいそうに······」


「運が悪かったんだろう。女の子ひとりだなんて、あいつらの格好の獲物だ」


 そんな声がアイシアの耳に届く。


「あの……。大丈夫です。えっと、連れがいるので」


「あれええ。へンだなあ、あんた、さっきひとりといっていたよなあ」


 三人のひとりが言った。


 どうやら、受け付けとの会話を聞いていたようだ。


 どうしよう。


「うそはいけないよ。嬢ちゃん」


 逃げようと思ったのだが、すでに三人に囲まれてしまう。


「結構です。本当に」


「そういうな。悪いことはしない」


 そのひとりがアイシアの手をつかもうとした。


「いやっ」


 アイシアはとっさに避けると、男のひとりを押しやり、その隙間から逃げようとした。けれど、すぐに男たちに捕まるのはわかっていた。

 助けてと叫びたかった。

 けれど、回りのだれも助けてくれない。


 あなたたちは冒険者ではないの?

 助けてくれてもいいじゃない。


 周囲は見ているだけでなにもしようとはしなかった。


 何て冷たいのだろうか。

 これが冒険者といえるのか。

 

 やっぱりやめたほうがいいかもしれない。

 せっかくここまできたのに、やめるわけにはいかない。

 どうにかしないと……

 

 そう思った瞬間、とっさに誰かの腕をつかむなり、強引に自分に引き寄せた。


「うわ」

 

 アイシアに捕まれた人物の驚きの声を出す。

 

 同時に何かの羽ばたく音。

 

 名前を呼ぶ声。


 そんなのどうでもいい。

 とにかく、この状況を打破しなければならない。


「こっ……。この人です。わたしの連れです」


 すると、三人の足が止まる。


「おいおい。まじかよ」


 そんな声が聞こえてくる。


「本当です。この人が私の連れです。いまから、この人と調査に向かいます」


 周囲がざわめいている。


「おいおい。冗談はよせよお。そんなやつとくんだってしょうがないぜ」


「絶対に俺たちの方が、達成率がいいぜ」


「そんなチョロイやつとはよお」


 男たちから笑い声が聞こえてくる。


「その言い方。すげえ、傷つく」


 アイシアに腕を捕まれた人物が声を発する。


 アイシアはそこでようやく顔をみた。

 

 男の子だ。


 アイシアとさほど変わらないほどのまだあどけなさの残る少年。


「どうみても、そうだろう。そんな細い体で調査できるかっての」


 赤い髪と緑色の瞳は三角眼。

 身長はアイシアよりも少し高いぐらいで、小柄。

 体格のいい男たちのいうように華奢な体をしている。


「人は見た目で判断するもんじゃないと思うぞ。なら、ここで勝負してみるか?」


 少年はアイシアを離すと腰に添えてた短剣の鞘に触れる。


「やってやろうじゃないの」


 男もまた長剣をかまえた。

 周囲が騒然となったのは、いうまでもない。


 そのときだった。


 なにかが羽ばたく音が聞こえてきた。


 同時に、男たちの頭に鳥たちが群がりはじめた。


「うわうわ。ヤタガラスだああ」


 男たちが慌てて追い払いながら、その場を去っていく。


「うわ」


 アイシアが呆然としていると、今度は少年の顔に鳥が体当たりしてくる。


 その反動で少年は地面に尻餅をついた。


「いてええ。」


 少年は腰をさする。


「キイが悪いんだよ」

 

 ヤタガラスと呼ばれた鳥はいつのまにか去っていき、その代わりに少年の目の前に小さな竜が飛ぶ。


「俺はなにもしていないぞ」


「喧嘩売ろうとした」


 アイシアは竜と少年を呆然と眺める。


「ド……ドラゴン?」


 少年と竜が言い争いをしていると、アイシアがようやく声をだした。


 少年たちは、アイシアを見る。


 アイシアは慌てて口を塞ぐ。


「ごめんなさい。変なことに巻き込んで……」


 アイシアは頭をさげた。


「本当だよ。いきなり腕つかんで、見ず知らずのやつにつれといわれてさあ」


「キイ」


「普通の反応だろう。普通」


 そういいながら、キイと呼ばれた少年は立ち上がった。


「あの……」


「気にするな。俺も気にしない。じゃあな」


 キイとよばれた少年は立ち去ろうとアイシアに背を向けた。


「待ってください」


 なぜだろう。


 アイシアは思わず止めてしまった。


 少年は振り向く。


 なぜ止めてしまったのだろうか。


 言葉がみつからない。


 どうしよう。


「ねえ。キイ、彼女とくめば」


沈黙を破ったのはドラゴンだった。


「はあ?」


 キイは眼を丸くする。


「いいじゃん。いいじゃん。まだ誰とも組んでいないし」


 キイはしばらく考え込んだ。

 

 そして、アイシアに視線を向ける。


「お前、何系?」


「え?」


「お前の職業だよ」


「えっと・・・・・・、マッパーかな」


 キイが暫し沈黙したかと思うと、突然アイシアの肩を両手でつかんだ。


「マッパーか。それはいい」


 突然、少年のテンションが上がる。


「お前、誰とも組んでないんだよな」


「はい」


「じゃあ、おれと……おれたちと組もう」


「はあ」


「ちなみにオレの職業は鍵師だ。よろしく!」


「はい?」


果たして鍵師が冒険者になれるのかと疑問に思いながらも、 アイシアはキイと呼ばれる少年と、その相棒らしいドラゴンとパーティーを組むことになった。







 


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