鍵師はドラゴンの子供と出会う8 箱
「もしかして僕はバッファローに食われたかもしれないってことか!?」
ドラゴンの子供がバッファローのエネルギー源ときいたリデルはいままでないほどに絶叫した。その声に周囲の人達の注目が集まる。
「すみません。気にしないでください」
アイシアはすぐさまそれに対応すると何事もなかったかのようにキイたちから人々の視線は逸らされた。
「食べたりしないぞ」
その代わり別の方向から声が聞こえたために振り返ると、いつかみた少年の姿があった。その少年の顔を見るなり、ペルセレムは顔を赤くして軽く歓声を上げる。
「あっ行倒れ」
キイは思わず口にする。
「キイ! クライシスハンターの方に失礼よ」
すぐさまアイシアがキイに叱りつけた。
キイは「そんな失礼なこといってないぞ」と怪訝な顔するとアイシアとシヨセイが妙に慌てふためいている。
そういまキイたちに話しかけたのは先日出会った行倒れだ。
名前はフェルド。
ペルセレムによると最年少のクライシスハンターらしいのだが、年齢はキイと変わらないぐらいで身長も高いわけでもない。あのハイレベルな魔力と戦闘能力を持つと言われる魔法騎士のエリート中のエリートであるクライシスハンターにはとても思えない。
腹をすかせて行き倒れるぐらいだからいかにも低レベルの冒険者にも思えるのだ。
でもアイシアやショセイたちにとってはクライシスハンターというものは尊敬に値するものであり、失礼を働いてはならない存在のようだ。
「たしかに行き倒れだねえ。でも仕方ないんだよ。おれ、すぐ腹減るからさあ。育ち盛りというやつだよ」
そんなキイたちの異様な空気を読み取ったのかフェルドは軽い口調で答えた。
「それに今回はただの冒険者なんだ。その肩書は箱にでもしまっておいてくれるといいんだけどなあ」
「はい?」
キイたちは何を言わているのか理解できずに首を傾げた。
「うーん。ようするにおれとエドルフ、エドルフというのはおれの相棒ね。ふたりでシャルマン国の冒険者に登録したわけなんだ」
「はあ?」
「そういうことだ。よろしくな」
フェルドは満面の笑みを浮かべた。
「えっとそれって」
「それよりもおおおお!」
キイがフェルドに尋ねようとすると、それを遮るようにリデルが声をあげる。
「どういうことなんだよおおお! 僕食われないのか? バッファローに食われないのか!?」
「ああ、食われないよ。ただ生まれたてのドラゴンを箱の中にいれるだけだよ」
「はこ?」
「そうさ。箱さ。生まれたてのドラゴンを拉致ったあとに箱に閉じ込めるんだよ。そんでもってある程度育て上げてからドラゴンの魔力を必要なだけもらい受けるってことさ」
「なんだー。そうなんだー。ってそれもっと最悪!ようするに奴隷みたいに扱われるってことじゃないか!」
リデルは涙目になりながら羽をばたつかせる。
「いたいた! やめろ! リデル」
その羽がキイの顔に当たり続ける。
「落ち着け! こら!」
キイはリデルを両腕で抑え込んだ。
「だって! だって!」
「とりあえずお前箱に入れられてないだろ! それに生まれたてってこともう捕まらないってことだよな」
キイは暴れるリデルを思いっきり抱いたままフェルドをみる。
「ああ、そういうことだ。産まれてから“ささくれ”が現れるまでに逃げ切れたらバッファローはもう追いかけてこない。晴れて自由だ」
「ささくれ?」
シヨセイは思わず本を巡る。
「ささくれって現れるメカニズムって解明されていないはずですよね」
「100%解明されるわけじゃない。でもドラゴンの誕生に関係しているのは確かだな。それと箱もな」
「世界のあらゆる場所に出現してるという箱ですね」
ショセイがたずねるとフェルドが頷く。
「そうさ。“箱”の出現もドラゴンの誕生も関係してるともいわれるし、クライシスの発生にも関係してるとも言われる」
「ちょっとまってくれ」
キイは思わず手を挙げる。
皆の視線がキイに注がれる。
「もしかして今回の大会が行われる会場に“箱”が出現したのか?」
「さあ、どうだろうなあ。それはわからない。それよりももうすぐ時間だぞ。せっかくの前夜祭なんだから楽しもうぜ。じゃあお先に」
そういうとフェルドは一瞬にしてキイたちの前から消えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます