鍵師はドラゴンの子供と出会う7 ささくれ
「それからどうやって生き残ったわけ?」
「ささくれ」
アイシアの質問にキイがあっさりと答える。
もうじき大会の前夜祭へ向かわなければならないというときにのんびりと飲食店で食事を取っていたキイたちはなぜかリデルとの出会いを話すことになった。
リデルが産まれてバッファローの大群から逃げる羽目になったところまで話を勧めているとすでに前夜祭へ向かう時間になり一度話が途切れていた。飲食店を出たところで続きが気になったアイシアがそう切り出したのだ。
外に出るとすでにあたりは薄暗くなっていた。
その光景はバッファローから逃げて森から出ようとしたときと同じだ。木々の隙間からかすかに夕日の光が差し込んでいる中でとにかくひたすら走ったのだ。
「こんな夕暮れ時になってさあ。ささくれが出現したんだよ」
ムメイジンはささくれと聞いて自分の指を確かめるように見るとキイに爪あたりを指差す。
「ここにできるやつか?」
「キイが言っているのは地面にできるささくれのことだよ」
ショセイがそう応える。
「地面にできるがささくれ? ようするに地面が盛り上がってくるとかということか?」
「そんなところかな。夕暮れ時になると時々出現して行く手を阻むんだよ」
ショセイは沈む夕日のほうを視線を向けながら説明し始めた。
「“ささくれ”っていうのはこのぐらいの夕暮れ時に地面がめくれて起き上がる現象のことを言うんだ。なぜそんな現象が起こるのかはわからないけど、小さいものなら足よりも低くて、大きいものならお城よりも大きな壁を作るらしいんだよ」
「城?」
そういわれてもムメイジンにはどんな高さなのかはっきりとは推測できずに首を傾げていた。
「あんな感じかな?」
それに気づいたキイはいま自分がいる場所からみえる塔を指さした。
何十メートルはありそうな大きな塔がそこにそびえたっている。
「あれが城?」
ムメイジンが尋ねる。
「あれはアルケミストの塔だぞ。城はもっと向う側にある。ここからは見えないかな」
「アルケミストの塔?」
「アルケミストの塔っていうのは魔術の研究を行っている場所だよ。あの塔の中であらゆる研究を施して新しい魔法を生み出しているんだよ」
ショセイがこたえる。
「へえ、そうなんだ。とりあえずあの高さの壁ができると思えばいいんだ」
「そういうことです。ちなみにキイはどれくらいの規模の“ささくれ”に出会ったんですか?」
ショセイが尋ねるとキイはしばらく思い出そうと試みた。
それはリデルを連れてバッファローから逃げるべくして走っているときだった。もうじき森を出ようとしたころにバッファローはすでにキイたちの目と鼻の先まで接近していたのだ。
あわやバッファローに襲われるかというときにまるでキイたちを守るかのように、キイたちとバッファローの間に“ささくれ”が出現した。その直後バッファローたちは一度立ち止まるとキョロキョロとあたりを見回し始め、やがてそのまま戻っていったのだ。
その様子がキイの目にははっきり見えていたので“ささくれ”はそんなに高くできているわけではなくあった。むしろキイのひざほどにしか到達していなかったのではないだろうか。
“ささくれ”ごしでもバッファローからキイたちの姿が見えるレベルだ。それなのにバッファローたちはキイたちを見失って立ち去っていった。
「どうやら“ささくれ”がキイとリデルを守ったってことですね」
「ああそういうことになるな」
「けど、ところでさあ。なんでバッファローがリデルを狙ったわけ?」
ムメイジンが何気なくたずねると、そういえばとキイが自分の肩の上に乗るリデルをみる。
リデルは知らないと首を横にふる。
「それはですね。たしか」
ショセイは本をめくり始めた。
「たぶん、バッファローにとってはドラゴンの子供というのは最高のエネルギー源なんですよ」
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