鍵師はドラゴンの子と出会う3 秘密
この世界にはあらゆる生物が存在する。もちろんドラゴンと呼ばれる存在は世界中のあらゆる場所で確認されており、ある国ではドラゴンを守り神として飼っているところもあるぐらいで特に珍しい存在ではない。
とくにムーア山はホワイトドラゴンの生息地であり、村からでも優雅に飛んでいる姿を何度となく目撃できるのだ。
ただ遠くでみていただけの存在であるために近くで見るのははじめてのことだ。
「でけえ!」
キイは思わず声を上げると先程まで閉じていたドラゴンの眼が薄っすらと開く。
「おい、大丈夫か?」
キイが話しかけるとドラゴンの視線が向く。しばらくキイを見つめていたドラゴンは今度は周囲を見回したのちに再び目を閉じた。
「おい!」
キイは思わず駆け寄る。
ぐるるるる
触れるよりも早く、ドラゴンの腹の虫が鳴き始めた。
「腹が減った」
ドラゴンが弱々しい口調で言うと、キイは思わず立ち尽くしてしまった。
「もしかして、腹が減りすぎて落ちたのか?」
「そのとおりだ」
「なんでそういうことになってんだ!?」
「いやいや嬉しすぎてはしゃいで飛んでたら飯を食うのを忘れていたのだ」
「はあ? 嬉しすぎって……。いつから食べてないんだよ!?」
「うーん、どれくらいかのお。少なくとも数日は飛びまくったからなあ」
「なにも食べずにか?」
「そうだ。それほどに嬉しいのだ! うれしくてたまらないのだ!」
するとドラゴンは体を起こすと両手をバンザイし始める。
それにより引き起こされた振動でキイは倒れ込んでしまった。
「わるい。人間」
すぐさまバンザイするのをやめるとキイに謝る。
「べつにいいけどさ。ところでいったい何日も飛び回るほど嬉しいことってなんだよ?」
キイは立ち上がりながら尋ねる。
「人間。これは秘密だぞ! だれにもいうなよ!」
「言わねえよ。べつに喋る人いねえし」
「ではいうぞ! いいか! これからいうことは他言だぞ! 私とお主のひみつだぞ!」
「ああ、秘密な。ひみつ」
そういいながら言いたくてたまらないだろうと内心思いながらもドラゴンに話を合わせた。
「では申す!」
「ああ」
「喜べ! にんげん! 私に子供ができたのだ!」
そういってドラゴンは再びバンザイしはじめる。
またキイは風で吹き飛ばされた。
「だからやめろ! それやるたびに俺吹き飛ばされているじゃないか! つうかそれ秘密にすることかよ?」
「もちろんだ! 人間どもに知られたら我が子にどんな被害をうけるかわからん」
「おれも人間だぞ。おれならいいのか?」
確かにドラゴンの子供はある一部の人間にしてみれば貴重だ。下手すれば奴隷のように扱われることもあるときく。ゆえにドラゴンにとっては子供が人間に奪われることを恐れている節がある。もちろん人間すべてがドラゴンを利用する輩ばかりではないことを十分にわかっており、基本的に人間に対して好意的である。
「誰かに言いたくてたまらなかったのだ! そこにあらわれたのがお主であっただけじゃ!」
そういって愉快に笑い始める。
「おいおい、おれもドラゴンの子供を利用する人間かもしれないぞ」
「お主なら我が子が利用されてもかまわぬぞ」
「はあ?」
「お主は奴隷のように扱う人間ではなかろう」
「なぜそういえる?」
「なんとなくじゃ! なんとなく我が子と友達になってくれそうなのだ! よし! きめたぞ!」
グルルルル
再びドラゴンの腹の虫がなる。
「それよりもなにあ食わせてくれぬか? 腹が空きすぎて死にそうじゃ」
「といわれても、お前らドラゴンって何食うんだよ」
「なんでもいいぞ。お主の落としたパンでもかまわんぞ」
そういわれてドラゴンの視線の先をみるとたしかにそこにはキイが食べかけていたパンが落ちていた。
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