ティラシェイド王子の来訪4

「えっ? もうすでに来てるのか?」


「そうそう、密かにお城に入られたらしいよ」


「残念。盛大に歓迎しようと思ってたのにさ」


 街へ入るとそんな話し声が聞こえてくる。


 どうやらティラシェイド王子は夜のうちに都に入ってすでにシャルマン国の王家でとの面会を果たしているようだった。てっきり盛大な歓迎の中でやってくるのだろうと思っていた住人たちにとって残念で仕方がないらしい。


 その一方であれほど有名な人がくるのだから、下手に騒ぎが起こらないように皆が寝静まっている頃にこっそりとやってきたのだろうという声も聞こえてくる。


 どちらにしても王子にお目にかかることはないようだ。


「全然ないわけじゃないと思うけどなあ」


 キイは仲間たちにのみ聞こえる声でいった。


「え? どういうこと?」


 アイシアが尋ねる。


「ティラシェイド王子って大会を見にきたんだろう? だとしたら大会にエントリーしてる俺達はふつうに見れるってことじゃないか?」


「たしかにそうね。王子が大会を視察なさるということだから私達は見ることができるわけよね」


「うーん。そうなると今回は参加者おおいかもしれませんね」


「でも参加者が多かろうと関係ねえよ。俺達は頑張るだけさ!」


 ムメイジンが拳を握りながら言う。


「たしかにそうだな。とにかく完走できるようにやるしかねえな」


 キイが同意する。


「それよりもギルドにたどり着けるかしら」


 アイシアがいつになく人で溢れている街の光景を見ながらいう。


 どこもかしこも人だらけで目的地には簡単に辿り着けそうにないほどだ。


「真っ当にいったらなかなか辿り着けそうもないよなあ。抜け道を通るか」


 キイの視線が路地の方へと向く。


「そっちいったらかなり遠回りになりますよ」


「急がば回れだ。もみくちゃになるよりはマシだろう? それともショセイだけもみくちゃになりにいくか?」


「キイ。そんな意地悪なこといわないでくださいよ」


「じゃあ、決まりだな。迂回していくぞ」


 そういうことになり、キイたちは滅多に通ることのない裏手の通りへと向かうことになった。












  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る