ドラゴンを連れた鍵師は鳥使いと再会する2

「全然つかまらないじゃねえか」


「まあ仕方ないさ。ダッサドリは鳥の中で一番すばしこいからな」




 ダッサドリを探しにナムルの森に入ったキイたちだったのだが、まったく捕らえることができずに数時間の時を過ごしていた。


 見つからないというわけではない。森に入った直後にはすでに発見しているのだが、ダッサドリのすばしこいことこの上ない。


 ずっくりした豚のような胴体とそれを支える細い足をもっているのにその走る速度はチーターにも負けないほどの速さなのだ。


 それになんとも身のこなしも軽やかで、隙を狙って捕まえようとすれば飛び上がって見事に避けられてしまう。その反動で何度も転倒してしまったムメイジンは身体中傷だらけになってしまっている。


 それを繰り返すものだから、とうとうムメイジンは根をあげて寝転がるとそのまま動かなくなった。そのかわりに愚痴ばかりがこぼれてくる。


 それに応えるキイもまたダッサドリを追いかけて走り回ったためにムメイジンのとなりに座り込み空を見上げた。


 空はすっかり薄暗くなり、星や月も輝き始めていた。


「なにバテてんのよ。これじゃあ、ご飯にありつけないわよ」


 アイシアが彼らを覗きこむ。


「仕方ないだろ。俺たち、ダッサドリ追いかけて走り回ってたんだぞ」


「そうそう。アイシアはいいよな。まったく動いてないじゃん」


「なにいってんのよ。私はちゃんとダッサドリを捜してたじゃない」


 そういいながら、スマホをみている。たしかにそうだ。ダッサドリを発見できたのはマッパーであるアイシアの検索能力によるものが大きい。もちろんスマホも役にたってはいるのだが、それはあくまでも補佐的なもので最終的にはマッパー自身の的確な判断によってパーティーの道筋が決まってくる。


 アイシアはスマホに表示されるマップを見ながら、ダッサドリの出没しそうな場所を特定する。それからナムルの森へ入り、アイシアの指示によって向かうと見事に遭遇したのだ。


「ほえええ」


 ほとんどダッサドリの検索をしていたアイシアとは違い、魔法を用いて捕獲に試みていたペルセルムはというとキイたちよりも早くバテてしまい座り込んでしまっていた。顔色は悪い。それを癒そうとするかのように彼女のそばでリドルが羽をばたつかせている。


「なあ、いい方法あったか? ショセイ」


「待ってください。いま探してるところです」


 そのとなりでショセイが必死な顔で本をめくっている。


 グルグルグル


「腹減った~」


 ムメイジンがお腹を鳴らしながらいうと、それに呼応したかのようにキイの腹の虫もなり始めた。


 そのまま寝そべりながら空を眺めていると、さらに夕焼け空が西の向こう側に消えたいくのが木々の隙間からみえてくる。


 金色に輝く月があたりを照らしはじめる。


「月って同じなんだなあ」


 ムメイジンがつぶやく。


「俺のいた世界もあんな月がぽかんと浮かんでたんだよ」


 そういいながら、懐かしそうな顔をする。


「ムメイジンって、一応記憶喪失だよね」


 アイシアが尋ねると、ムメイジンは首をかしげる。


「うーん。名前は相変わらず思い出せないんだけど、ほかのことは結構覚えたんだよなあ。なんで、名前だけわからないんだろう?」


「わかった!」


 キイが人差し指を空に向けた。


「よほど、ダサイ名前だったんじゃねえの?」


「いやいや、そんなことないぞ。ぜったいにカッコいい名前だぞ!」


 そういいながら起き上がった。


“ムメイジン”という名前がかっこいいという彼の本名はいかようものなのか考えると、キイにしてみれば、さほどカッコいいとは思えなかった。


 名前だけが覚えていない。


 だから、生活するにはたいして問題はないのかもしれないのだが、せっかく両親が考えて付けてくれた名前の記憶がこぼれ落ちているということは悲しいことのようにキイには思えた。


 思い出すのは両親の姿。


 父は故郷の村で鍵師の仕事をしている。時々連絡をとっているし、それなりに元気にしているだろう。


 だけど、母のほうはわからない。


 ある日当然いなくなったのだ。どこでなにをしているのかも、生きているかどうかもわからない。


(まったく手がかりなしだもんなあ)


 母の消息を探すためもあって、冒険者になったのはいいのだが、まったく情報がない。


(でも、たぶんどこかで生きているはずだ)


 なぜかその確信があった。


 いつか母を見つけて父と再会させたいものだ。


「キイ? どうかした?」


 ぼんやりと考え事しているとアイシアが心配そうな顔を向けてきた。


「なんでもない。もう日が暮れるなあ。どうするか?」


 キイとムメイジンが体を起こす。


「ふええ」


 ペルセルムはまだ回復していないらしくて、座り込んだままだ。


「さて、もう一踏ん張り」


「無理ね」


 ムメイジンが片腕を回しながら再び歩き出そうとするとアイシアがとめた。


「もうこのあたりにダッサドリいないわよ」


 アイシアがスマホを覗きながらいう。


「まじで?」


「まじよ。だって、もう日が沈んだし、野生のダッサドリはどこかの巣に潜り込んでいるわよ。まあ、鳥使いの飼うダッサドリなら移動してるかもしれないけど」


「鳥使い?」


 ムメイジンは聞きなれない言葉に怪訝な顔をした。



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