ティラシェイド王子の来訪2

 ティラシェイド=アーク=アメシストはかつてこの世界を絶望へと追い込んだ魔王ギルティの魔の手から世界を救った英雄であり、アウルティア大陸の中でも優れた魔法使いが集まっている魔法大国アメシストの第一王位継承者でもある。


 見た目も金髪金眼の美青年で他国からの人気も高く、一目見ようという人はかなりの数をしめている。


 シャルマン国もまた彼の熱狂的なファンがいるために来訪してくるとなると街をあげてのお祭り騒ぎになるほどだ。


「ティラシェイド王子ってこの国きたことなかったか?」


「たしか十年前にきたはずですよ。あのときもすごい騒ぎでしたから」


「十年前?」


 キイはその言葉で母の姿が思い浮かんだ。まだ幼かったころだからぼんやりとしかわからないが穏やかで優しい人だった記憶だけはある。


(母さんがいなくなったのも十年前だったなあ)


 ある日突然母はかつて仕えていた良家のお嬢様の看病をするために都へ出ていった。それからしばらくして良家の人たちとともに忽然と消えたのだ。十年たったいまでも行方がわかっていない。


(それとこれは関係ねえんだけどさ)


「キイ? どうかしたの?」


 アイシアの言葉でキイははっと我に返る。


「いや、なんでもない。それよりもティラシェイド王子って今日にもくるのか?」


「さあ? 聞いてみますか?」


 ショセイは近くにいた女性に話を聞いた。


「10日後だそうだ。ほらもうすぐ冒険者の大会があるだろう? それをご覧になるそうだよ」


 年は50すぎているであろう女性はまるで恋する少女のように目を輝かせながら声を弾ませている。


(こんなオバサンでも虜にする王子ってどんなやつなんだ?)


 キイは話でしか聞いていないティラシェイド王子に多少なりとも興味をもった。


「10日もあるのにこの騒ぎだと当日すごいことになるわね」


「そうですう! とんでもないことになりますう!」


 ペルセレムが確信したようにいう。


「もしかしてみたことあるの?」


「はい! 昔旅行でアメシスト国へいったときにお目にかかったことがあります」


「どんな感じの人だったの?」


「はい! はい、えっとおおお」


 アイシアの質問にペルセレムは戸惑う。


「実は遠くでみただけなのでよくわかりません。たぶん素敵な人なんでしょうけど……。それよりも王子の近くにいた……きゃっ!」


 ペルセレムの顔が赤くなる。


 彼女が憧れているというクライシスハンターが浮かんでいるのだろうことは誰もが想像つくものだった。


「そんなにいい男なのか? そのなんちゃらドってやつ」


「フェルドさまです!」


 ムメイジンの言葉に対してペルセレムはいつになく大声を出す。


 その様子をムメイジンはいかにも面白くなさそうな顔をしながら「どうでもいいけど」と別の方向へと視線を向けた。


「なんなんですか!? ムメイジンさん!」


 そんなムメイジンの態度にペルセレムはムッとする。


「なんでもねえよ。そんなに熱くなるってどんなやつなのかと思っただけだよ。ムキになるなっての」


「ムキになってなんていません!」


「そこまで!」


 キイが二人の間に割って入った。


「それはいいとして、冒険に行こうぜ。俺達は少しでもレベルをあげないといけないだろ」


「そうよ。お金も少しでも稼がないといけないわよ」


「そうですよ。言い争ってる場合じゃありませんよ」


「冒険! いこ! 冒険!」


 リデルが無邪気な声を上げながらキイたちのすぐ上を飛び回る。


「そういうわけだ。アイシア、位置の確認頼む」


 キイがいうとアイシアがスマホを確認する。


「オッケー。次は東北ね。いきましょう」


 そしてキイたちは賑わう街を抜けて冒険の地へと向かった。






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