ティラシェイド王子の来訪1

 大会へのエントリーを終えたキイたちはとりあえず冒険の依頼がないかの確認をした。


 大会までの2週間。なにもしないわけにもいかないし、少しでもレベルをあげるべくして冒険する必要もあったのだ。だが、まだランクの低いキイたちには一気にレベルを挙げられそうな案件が回ってくることはない。簡単な冒険の依頼ばかりが紹介されるのはまったく変わらない。


「やっぱり地道にやれってか。いったいいつ俺達はレベルをあげることができるのだろうか」


 毎度のことながらキイは嘆きの声を上げる。


「本当ですよ。このままだと僕たちはなにもかわりませんよね」


 ショセイがいう。


「だから大会に参加するんでしょ! レベルをあげる一番効果的なのが大会にでることなのよ」


 アイシアの言う通り。大会に参加して完走すればいままでの何倍ものレベルの向上につながる可能性がある。いまのランクよりも一段上がる可能性が十分にありえることになる。そうなれば、冒険の依頼もいままで以上に増え、報酬もだいぶん違ってくるはずだ。


 そのためには何ができるかといえば、これといった対策があるわけではない。


 大会でどういったことが行われるのかも当日で何とわからないのだ。しかも毎年内容が違うものだから、ちゃんとした対策が立てられるわけでもない。


 ならば、とりあえず2週間の間に冒険での経験を積んでいくしかないだろう。


「まあとりあえず、この冒険やろうぜ」


「そうですね。とにかく稼がないと」


 そういうわけでキイたちはいつも通り簡単な冒険に挑むことにした。


「そういえば来るときも思ったけど街の雰囲気変わっていないか?」


 適当に冒険の依頼を受け取りギルドを出たキイたちはいつになくあらゆる場所に華やかな装飾が施されていることに気づく。


 家と家を繋いだロープにかけられた無数の旗がなびき、キラキラと輝く光があらゆるところで見受けられる。よるになればきれいなイルミネーションが輝いているのが想像できる。いつもは静かなはずの通りにはどこからともなく音楽が流れ、それに合わせて踊る姿も見受けられる。


「今日ってなにの記念日だっけ?」


 キイが尋ねるとアイシアが首を傾げ、ショセイがなにかあったかなあと本を忙しくめくっている。


「今日は国交が成立した日ですう」



 するとペルセレムが口を開いた。


「国交? それって国と国がなかよくなった日ってことか?」


 ムメイジンがいう。


「はい! シャルマン国とアメシスト国民の国交が成立した日だったはずですう。それでえ、5年に一度この時期になると両国の王家が揃って晩餐会が開かれるそうなんですう」


「王家の晩餐会? 俺達には関係ない話じゃねえの? それなのにあんなに浮かれてるのか?」


 キイはなぜか不機嫌そうにいう。


「あんたら知らないのかい!」


 するとひとりの男が話しかけた。


 みると顔が赤い。昼間から酒を飲んでいるようだ。


「実はあのティラシェイド王子が来られるんだよ! だからみんな浮かれてんの!」


「え?? ティラシェイド王子!!」


「だれ?」


 驚きの声を上げるキイたちだが、ムメイジンのみが怪訝な顔をしていた。






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