真夜中のお姉さんと鍵師3

 ダッサドリの捕獲に成功したのちにステラで半日ほど過ごした後、トゥーシーは暮らしているカイドウの村へ戻る頃にはすっかり太陽が沈んでしまっていた。


 村に入るとほとんどの家の電気は消えており、暗闇のみ広がっている。


「相変わらず皆さんお早いおやすみで」


 揚々とした口調でつぶやきながら、その足取りは自宅ではなく、ロックウェルの家へと向かう。


 ほとんどの家が就寝に入っているなかで鍵師の家の灯りはまだついているだろうか。今日に限って早く寝た可能性もある。


 まだ起きていることを期待しながらトゥーシーは田んぼの畦道を軽い足取りで歩いていく。


 やはり鍵師の家の灯りがついていた。


 まだ仕事をしている最中なのだろう。


 トゥーシーは玄関の扉をノックする。


 しかし返事はない。


 灯りは消し忘れだろうか。


 そのまま眠ってしまったのか。


 もう一度ノックする。


 やはり返事はない。


 そんなに大きい家ではないのだから、家のどこにいても聞こえるはずだ。


 もしかしたら倒れているのではないか?


 ここの鍵師はずっと働いているのだ。


 村の人たちはいつ休んでいるのだろうと思うほどに働いているのだと言っていたことを思い出した。


 もしかしたら、働きすぎて倒れているのかもしれない。


 そう思うとトゥーシーは扉を開けようとした。けれど、開かない。


 鍵がかかっているようだ。



 けど、窓なら開いているのかもしれない。玄関の扉はしめるのに、窓はよく開けているのだ。中途半端な防犯だとトゥーシーは常々思うのだが尋ねたことはない。そういうわけでロックウェルがいそうな部屋の窓へと回る。やはり開いていた。カーテンがヒラヒラと揺れているのがみえる。


 窓からそっと中を覗くとやはりロックウェルがいた。彼は机に頭をつけて寝ていたのだ。


 せっかく寝ているのだから邪魔してはいけないかなあと思い、そっと鍵師の家から立ち去ろうとした。


「やあ、シャリアンナ。帰ってきたのか」


 振り向くとロックウェルが窓からトゥーシーを見ていた。


「うん、さっき帰ったの。報告しようと思ったんだけど、おじさん寝てたからそのまま帰ろうと思っていたんだけど……」


「あれ? 俺寝てたのか?」


 なぜかロックウェルは驚いたような顔をしたのちに困惑の表情を浮かべる。どうしてそんな顔をするのかトゥーシーは首をかしげる。


「もしかして、締め切りは明日までの仕事をしていたの?」


「いや、通常の仕事してただけだよ。べつに眠ってもいいんだけど、あまり寝ないほうがいい仕事なんでね」


「へえ、そうなの。鍵師にもいろいろあるのね」


「ああ、いろいろとね。ところでキイに会えたか?」


「ええ、会えたわ。ちゃんと渡したわよ」


「ありがとう。もう遅いから早く帰りなさい。ご両親も待っているぞ」


「そうね。寝ないでまっているにちがいないわ。じゃあ、おやすみなさい」


「ああ、おやすみ」


 トゥーシーは自宅へ向かって駆け出した。


 そして、ふいに足を止めて振りかえる。


 相変わらず灯りはついたままだ。


 けれど、先程まで開いていた窓は閉められている。開けっぱなしだったのに気づいて閉めたのか。それともトゥーシーが訪れることがわかっていて開けていたのか。おそらく前者。それなら、玄関を開けているはずだ。


「さてと帰ろうかしら」


 トゥーシーは今度こそ振り向くことなく自宅へ真っ直ぐに向かう。


 案の定、トゥーシーの家のあかりはついたままだった。


 家の扉を開けるとおかえりという声が聞こえてくるのであった。

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