ドラゴンを連れた鍵師は読書家に会いました

アイシアとキイはギルドを出ると、新たな仲間を探すことにした。


さすがにマッパーと鍵師、まだ生まれて間もないらしいドラゴンの二人と一匹では戦力的に物足りない。


というよりも明らかに最弱なパーティとしか思えない組み合わせだ。


だから、魔法使いか剣士という受付嬢のアドバイスを受けて、探すことにした。


もちろん、道行く人たちがすべて冒険者というわけではない。むしろ一般人が多いのだ。その中で冒険者をどうやって見つけるかというと、先ほどギルドで渡された“スマホ”と呼ばれるカードが役に立つわけだ。


冒険者のみに与えられるステータスシステムが組み込まれた“スマホ”には、冒険者かどうかを確かめる機能があった。もちろん、それはカードを持っている同士が反応し合うという類だから、持っていない冒険者志望には反応しない。



基本的にパーティ組んでからの登録だから。仲間になってくれそうな人を探すというよりも自分たちが入るパーティを見つけるということが目的でなければ意味がない。



「入りたくねえなあ。せっかくパーティ組んだんだから、入れるほうがいいじゃん」


キイの意見にアイシアもドラゴンのリドルも賛成だ。



ならば、どうやって探すのか。


このスマホを持っている=パーティを組んでいるとすれば、自分たちに入ってもらうように交渉するのは至難のわざだ。


「パーティを抜けたやつならありえるかもな」


キイがいった。


パーティを組んだうえでの冒険者登録ということで、一つのパーティに一台のスマホというのが基本らしいのだが、特例として個人で持つことができることもある。


 それは一定のレベルに達したものがパーティを抜けて独立する場合だ。


 初心者では無理だが、ある程度の冒険者としての経験を積めば、単独としての登録ができるらしい。


「それなら、だいぶん戦力になるわね」


 通常パーティを抜けた単独の冒険者が入るとしたらそれだけでパーティのレベルが跳ね上がるわけだ。


それもいいかもしれいないなあ。


 そんなことを考えていると、だれかがアイシアにぶつかってきた。そのままバランスを崩して倒れこむ。


「アイシア。大丈夫か?」


「いたたた。大丈夫よ」

 

 そういいながら、アイシアにぶつかって一緒ら倒れこんでしまった人物のほうへと視線をやる。


「どこ? どこなの?」


 アイシアに見向きもせずに四つん這いになって地面を両手でなぞるようにして、なにかを探していた。


 少年のようだ。


 ベレー帽から覗かせる跳ね上がった髪。


 アイシアたちよりも少し年下ぐらいの少年だった。


「おい。人にぶつかっておいて」


 キイがその少年に近づいた。


「ないよおおおおお」


 その瞬間。少年が頭を上げたために、キイの顎に頭部が思いっきりぶつかった。


「いてええええ」



「ない。ないよおおお。ぼっぼくの本がないよあああ」


「おい。こら」


 キイの叫びなどまったく聞いている様子もなく、地面を這いつくばっている。


「本?」


 アイシアは少年のすぐ足元に一冊の本と眼鏡が転がっていることに気づいた。


「これかしら?」


 アイシアは眼鏡と本を手に取ると、少年のほうに持っていく。


「あ。これだよ。これ。眼鏡あったああああ」


 少年はすぐに眼鏡をかける。

 なせが眼鏡にはグルグルとした文様の入った眼鏡だった。

 それって見えにくいのではないかと突っ込みかったのだが。少年はただ嬉しそうに本を持ち上げる。


「あああ。でも、どこまで読んだかわからなくなったなあ。まあいっか。最初から読めばいい」


 そういって。アイシアたちから遠ざかろうとした。


「ちょっとまてえええええ」


 キイは少年の肩を掴んで振り向かせる。


 少年は驚いたようにキイを見る。


「お前なあ。人にぶつかっておいて謝らないのかよ。それにその本拾ってやったのはアイシアだぞ」


「うわわわわわ」


 キイの三角眼に睨まれて少年はあたふたする。


「キイ。やめてよ。子供になにするのよ」


アイシアは思わず叫んだ。


すると、先ほどのであたふたしていた少年がピタッと止まる。


「子供?」


 そして、グルグル模様の眼鏡を右手で整えながらアイシアを振り向いた。


「子供ではありません。僕はこれでも25歳です」


「「はあ?」」


 アイシアとキイ、リドルまでも目を丸くした。


 自分たちよりも十歳も上なのか。


 まったく見えない。


 思わず、少年。いや青年をマジマジとみていると、彼はたじろぐ。


「だったら、礼儀はちゃんとしないといけなくないか?」


「そうだ。そうだ」


 キイとリドルは子供にしか見えない青年を睨みつける。


「えっと。すみません。ありがとう」


素直に謝った。


「それよりも君たちは冒険者ですか?」


「おいおい、いきなり話題変えるのかよ」


「そうですけど?」


ツッコミを入れるキイの隣でアイシアが素直に肯定する。


「なぜ、わかったんですか?」


 アイシアが質問しかえすとそれだとスマホを指さす。


 どうやらスマホの存在は王都では当たり前のようだ。


「突然だけど君たちに頼みがある」


「「はい?」」


「僕も冒険者志望なんです。なかなか仲間ができなくて……。これもなにかの縁です。君たちの仲間に加えてくれませんか?」


その言葉にアイシアたちはお互いの顔を見合わせた。


どうみても剣士でも魔法使いでもなさそうだ。


ただの本好きな眼鏡をかけた子供にしか見えない。


「どうする? キイ」


「うーん。おれたちもできるだけ仲間がほしいからなあ。とりあえず、名前と職業だけでも聞いてみるか」



「そうね。そうしましょうか」


 彼に聞こえないように話し合いをしたのちに、代表してキイが彼の名前と職業を尋ねることらした。



「僕はショセイ=アズベルト。職業は読書家です。よろしく」


「「はっ? 読書家?」」


読書家は職業とはいわないんじゃないのかと二人と一匹が思ったのはいうまでもない。



 

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