ドラゴンを連れた鍵師と読書家は本を探しに行く14

 ブラックドラゴンはムメイジンのいた世界で言うところに烏と同じ姿形をしているが、その大きさは3倍もある。普段は人前に姿を表すことは滅多になく、森の奥深くで群れをなして生活している。だが警戒心が強いゆえに一歩でも彼らの縄張りに入ってしまえ、襲う習性がある。


 どうやらキイたちは縄張りに入り込んでしまったらしい。


「うわあああ!」


「なあ、アレックスたちがどうにかできないのか?」


 キイはアレックスたちに向かって叫んだ。


「無理だよ。きりがないのだ」


 アレックスのいう通りだ。ブラックドラゴンの群れは何千もの大群を作り、侵入者を排除するために攻撃してくるのだ。一度ターゲットにされてしまえば領域からでないかぎりどこまでも追いかけてくる。大群であるゆえにいくら排除してもどこからともなく湧き出てくる。


 ならば彼らの襲ってこない縄張りの外にでれば済む話なのだが、なにせ滅多にお目にかかれない生き物。生態がはっきりしているわけもなく、縄張りとなる目印らしきものがあるわけでもない。


「攻撃しても無駄だから、私達も遭遇したときはとにかく逃げるようにしているのよ」


「そうそう。彼らはただ縄張りを侵されるのがいやなだけだし、侵入しきた僕たちが悪いんだからね」


 ランとライアンが自分たちを追いかけてくるブラックドラゴンへ視線を向ける。


「というか、あなたたちはよく遭遇しているんですか?」


 シュセイが尋ねるとアンラッキーのメンバーは揃って首を横に振る。


「そんなわけないわよ。これで5回目」


 魔法使いのアクエリアが応える。


「5回!? いやいや充分多いぞ」


「アレックスたちはいったいどんな冒険してきたのよ」


 キイとアイシアが突っ込むとアレックスは「いろいろといったさ。とくに森奥深くのダンジョンは常連だ」と透かしたような顔で応える。


「本当に相変わらず嫌味だわ。あなたは!」


 アイシアはムッしていうと、アレックスは苦笑いを浮かべる。


 そんな会話をよそにブラックドラゴンはガーガーという威嚇するような鳴き声を出しながらキイたちへと迫ってきていた。


「とりあえず! 結界魔法をかけるわ!」


 そういってアクエリアが呪文を唱えると、ブラックドラゴンが見えない壁にぶつかり弾き飛ばされる。なにが起こったのかと一瞬動きを止めたブラックドラゴンだったのだが、すぐさま見えない壁めがけて突進してきたのだ。


 パリーン


 ガラスが割れる音とともにブラックドラゴンがキイたちに向かってくる。


「やっぱりだめね」


 そういってアクエリアは舌を出す。


「ぎゃあああああ!」


 とにかく走る!   


 走っていけばいずれ縄張りから出るはずだと信じて走るしかないのだ。





「こっちだよ!」


 そのとき突然キイたちのキイたちの脳内にささやくような声が直接響いてきた。


 正面のとんがり屋根の家を見ると扉がかすかに開いており、だれかが手招きしているではないか。


 だれなのかはわからない。


 入ってよいのか考えるよりも早くキイたちはトンガリ屋根の家の開かれた扉へと飛び込んだ。



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