ドラゴンを連れた鍵師と読書家は本を探しに行く13

 舗装されたレンガの道を歩いていくと建物が見えてくる。赤いレンガづくりの建物の青いトンガリ屋根にある煙突からはもくもくと煙があがっている。


 近づけば近づくほどなにやか香ばしい匂いがしてくるではないか。どうやら建物内では料理が作れているところのようだった。


「なんか三匹のブタの家みたいだなあ。いやいやヘンゼルとグレーテルなでてくる魔女の家かなあ」


「ムメイジンさん、なんですか? それ?」


 そんなムメイジンのつぶやきに隣を歩いていたペルセレムが訪ねた。


「童話だよ。童話。おれの世界にある童話なんだ」


「そうなんですね。それでどんなお話ですか?」


「話?うーん。忘れた」


「童話といえば“カリスの青い花”っていう童謡があるわね。たしか、それにもこんなトンガリ屋根の家が登場するのよね」


 アイシアが目の前の建物を指さしながらいった。


「知ってます! カリスという魔法使いの女の子が願いを叶える青い花を探すんですよね?」


 ベルセレムが言葉を弾ませながらいった。


「へえ。なんか魔法の国のアリス的な話か」


「その話もムメイジンがいた世界のお話ですか?」


 ショセイはなか本をめくる。


「ショセイ。さすがに異世界の童話のことなんて書かれていないんじゃないのか?」


「なぜ異世界の童話と思ったんですか? キイ」


「カリスの青い花ならシャルマン国の国民ならだれもが知ってる話じゃん。だから、異世界のことを調べようとしてんじゃないかと思ってさ」


 するとみんなの視線がキイに注がれる。


「なんだよ。俺の顔になんかついているのか」


「いや」


「キイつて」


「意外と物事を冷静にとらえるなあと思ってさ」


「意外は余計だ」


「君たち。いつまで話してるの。本を取り戻したいんでしょ」


 アクエリアの声にふりかえるとアンラッキーのメンバーがずいぶんと先へといっていた。


「え? 皆さん本泥棒探しに手伝ってくれるんですか?」


 アイシアが目を丸くする。その様子にキイは首をかしげる。


「ついでだ。どうせ通り道だからな。こういう小さなクエストをこなしていくのも大切なんだからな」


 アレックスがそっけない口調でいうとキイたちに背を向けて歩き出した。


 そんな彼にアイシアは不機嫌に睨みつけている。


「アイシアとアレックスの関係ってなんでしょうね?」


 キイが考えていることを代弁するかのようにショセイがつぶやく。それに対してキイは「知るか」とまるで気にしていないように装ってみるも、ショセイはバレバレだよと言わんばかりに目を細めた。


 キイは思わず空を仰いだ。


 するときいの視界になにか黒いものが通り抜けていくのが見えたような気がした。


「あれ?」


 なんだろうと目を凝らしてみると、やはり黒いものがどこからともなく現れては消えてを繰り返しているではないか。


「おまえら! にげろ!」


 突然アレックスの切羽詰まったような声が聞こえた。


 キイイイ!


 同時に黒いものがキイたちにはめがけて突進してきたのだ。


 よく見るとそれは鳥の群れだ。


 黒く大きな鳥がこちらへと襲ってくるではないか。


「でっかい烏うううう!」



 ムメイジンが叫ぶ。



「ブラックドラゴンだああああ!」


 ショセイも叫ぶ。


「ぎゃああああ!」


 気づけば、キイたちがものすごいスピードでトンガリ屋根へと向かって走り出していた。

 

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