ドラゴンを連れた鍵師と仲間は洞窟探検をする2

 森を進んでいくとどこまでも鬱蒼な獣道が続いている。普通だったら迷いそうな道がどので続いている。


「アイシア。こっちでいいのか?」


 キイが尋ねるとアイシアはマップを確認する。


「大丈夫よ。方向はあっているはずよ。ほら、あそこみて」


 アイシアは正面を指差す。そこにはひときわ大きな大木がそびえ立っているのが見えた。


「この森の中央にはあのアーロンの木がそびえ立っているのよ。その木のすぐそばに大きな岩があるのがみえる?」


 アーロンと呼ばれる大木のすぐ隣にはたしかにアーロンの木よりもすこし高めの岩がみえる。


「もしかして、あそこに洞窟があるのか?」


「マップによればそうよ。これから私たちの向かう洞窟があるわ」


「アーロンの大木かあ」


 ショセイは感心したようにいうと持っていた本をめくり読みはじめた。


「神話の時代にアーロンという神が植えたとされる大木だね。毎年雪月になるとほんの七日間の間金色の花を咲かせるんだよね。その花びらが散ると森の木ノ葉たちが赤や黄なんかに鮮やかな色をつけるんだ」


「噂では聞いているわ。見たことないけど、時期的にまだ雪月じゃないわよね。まだ若月だもん」


「そう。まだ数ヶ月先さ」


 そういいながらショセイは本を閉じる。


「雪月? なんだ? それ?」


 アイシアとショセイの話を聞いていたムメイジンが口を開く。


「雪月っていうのはアウルティア大陸の12

 季節の一瞬よ」


「12の季節?」


「そうよ。いまは若月っていうんだけど、次が紅月、雲月、霧月、雪月、雪月が終わると新たな一年がはじまる神月になるわ」


「うーん」


 アイシアの説明にムメイジンは頭を悩ませはじめた。


「あれ? 大丈夫? 聞いてる?」


 アイシアが心配そうに顔を覗かせる。


「わかんねえ! 難しいことはわかんねえ。とっとにかく進むぞーー!」


 ムメイジンはごまかすかのようにアーロンの大木へ向かって走り始めた。


「おいおいおい! 勝手に先にいくなあああ!」


「そうだ! そうだ!」


 そのあとをキイとリデルが追いかける。


「あっ! また!?」


 アイシアはあきれかえり、ショセイが苦笑いを浮かべる。


 それからアーロンの大木へたどり着くまでさほど時間はかからなかった。


 近くにたどり着くと本当に大きな大木がそびえ立ち、その幹も太い。


 上を見上げると青々とした木ノ葉たちが太陽の光に照らされてキラキラと輝いている。


 よくみると枝の上には小さな妖精らしいものが何人かくつろいでいる姿がみえた。


 それをムメイジンは物珍しそうに見上げている。


「あー。聞いてみようよ」


 キイの肩に乗っていたリデルが突然飛び上がると枝でくつろいでいた精霊のほうへと近づいた。それに気づいた精霊たちはあわてて枝から飛び立つ。


「あああ! 怪しいものじゃないよ。取って食おうなんてしてないよ」


 リデルが慌てて弁解する。それでも精霊たちは葉っぱの影に隠れながら不安げにリデルをみている。


「リデルううう! なに精霊を怖がらせてんだよ!」



「怖がらせていないよ。ひどいなあ。キイ」


 リデルが木の下にいるキイを振り返っていると精霊の視線もまた下のほうへとそそがれる。キイをものずらしそうに見ていたかと思うと精霊のひとりがキイの元へと近づいてきた。キイの顔を見つめていたかと思うと、くるんと頭の上を回ったかと思うとたちまち目の前でとまり、クスクスと笑いはじめる。


「なんだよ。他人の顔見て笑うなよ」


 キイはムッとする。


「ごめんなさい。初めてみるからなんか嬉しくて」


「はい?」


 キイは怪訝な顔をする。


「あなた、鍵師さんでしょ? こんな森に入る鍵師さんなんてはじめてみたわ」


「まあ、ふつうはこんなところにこないなあ」


 キイは頬をポリポリとかきながら空をあおいだ。


「どういうこと?」


 アイシアが尋ねた。


「単純にいうと鍵師が冒険者になるのは珍しいってことだよね」


 キイのかわりにショセイが答えた。


「その通り。鍵師っていうのは大概街を拠点にして依頼をうけて仕事をこなすものなんだよ。だから、ほとんどの鍵師は一生を街で過ごすんだ」


「そうものなの?」


「でも、まったくいないとはかぎらないんだよ。冒険者の職業リストにあるぐらいだからな」


「というか、基本的になんでもありだけどね」


 ショセイは本を開きながらそうつぶやく。


「そうなんだよなあ。冒険者の職業なんてどこかいい加減なのは事実」


 キイがやれやれとため息を漏らす。


「ねえねえ。君たちはあのダンジョンをしらべにきたの?」


 別の精霊がすぐそばにある岩を指差しながら尋ねた。


「ダンジョン? あれってただの洞窟じゃないのか?」


「違うよ。ダンジョンだよ。ちゃーんとモンスターがいるもの」


 精霊がそう答える。


「え? なに? モンスターがいればダンジョンって呼ばれるわけ?」


 ムメイジンはキイたちを見回りながらたずねた。


「洞窟はただの洞窟だよ。でも、洞窟のなかにはモンスターの住みかになってたり、トラップが仕掛けられていたりするものもあるんだ。それらをダンジョンと呼んでる」


 ショセイがそう説明してみるも、ムメイジンにはよく理解でしていない様子で首を傾げている。


「まあ、冒険者やってりゃあ、そのうちわかるさ」


 キイの視線は大岩のほうへと注がれる。


 ただの洞窟ではない。


 モンスターがいるダンジョンだ。


 そこにはおそらくトラップがある可能性もあると同時に今後のパーティーのレベルアップにつながるような魔法力や武器も手に入れられる可能性もあるということだ。


 魔法力はこの世界のあらゆるものに宿っている。それに触れることで自分の力にしていくことができる。時には魔力の才能にめぐまれたものには相当のレベルアップとなるのだが、そうでないものにとってもなにかしろの恩恵を受けることになる。たとえば、知識を得たり、体力が増したりと人によって違う。


 ただひとつ触れてはいけないものも存在する。


「それがクライシスでなければいいんですがね」


 ショセイがなにげに呟いた。


 その言葉にムメイジン以外は黙り混む。


「クライシス?」


 ムメイジンが首をかしげる。


「それはないわ」


 不安そうな顔をするキイたちに精霊は断言する。


「そんな恐ろしいものはないはずよ。とになかくいってみるといい。なにか面白いものがみえるかもしれないわ」


 そういいながら、精霊たちが楽しげに笑う。


「面白いもの? なんかすげえ不安になるなあ」


 キイが猜疑の目で精霊たちをみる。


「大丈夫! 本当にきっと鍵師さんたちも楽しい冒険になるはずよ」


 そうつげると精霊たちは再びアーロンの大木へと戻っていく。


「なーんか、怪しすぎだなあ」


 リデルが言った。


「どうする? やめとく?」


「うーん」


「キイ、アイシア、迷ってる場合じゃないよ」


 キイたちがショセイみる。


 ショセイの視線はすでに大岩のほうへと注がれている。



「いくぞおおおおお!」


 そこへ視線を写すとムメイジンがすでに大岩の近くまでかけだしていた。


「「またこのパターン!?」」


 キイたちは異口同音の声をあげた。







 


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