ドラゴンを連れた鍵師と読書家は本を探しに行く15

「勝手に入らないでください」


 背後から声が聞こえてきたために振り返ると、“ピノキオ”が困惑した表情で頭をかいている。


「おまえがブックトラップだったのか!?」


 ショセイが“ピノキオ”を指さしながら叫ぶ。


「そうだけど? 良く知ってるね」


“ピノキオ”は至って冷静だ。突然訪れた冒険者の行動に驚いたようすではあるがまったく慌てている感じではない。


 本当にこの男が盗んだのだろうかとキイは疑問さえも抱いた。


「なぜヒストリアの店の本を盗んだんだ!?」


「は?」


 ショセイの問いに“ピノキオ”いやブックトラップはキョトンとする。


「ここにある本はすべてヒストリアの店のものだ

 !おまえが盗んだんだろ!?」


 ショセイの声はいままで聞いたことのないほどに荒れている。


「ショセイ!」


 キイはいまにもブックトラップを殺しかねない勢いのあるショセイの腕を掴んだ。


「なにするですか!?  キイ」


「落ち着けって! 興奮しすぎだ」


「これで落ち着いていられますか! こいつは大切な本を盗んだんですよ! いわゆる敵です! 憎き相手です」


「なんかズレてねえ?」


 ムメイジンが思わずツッコミをいれると隣りにいたペルセラムが無言で頷く。


「いいから落ち着けっての! とにかくこの人の意見を聞こうぜ」


「でも!」


「いいから! なんか俺達の聞いていたのと少し違うみたいだぜ」


 そういわれてショセイはブックトラップのほうをみる。


 ブックトラップは何を言われているのか理解できない様子で首を傾げている。


「いいから俺にまかせてくれ」


 そういってショセイの肩をポンとたたくとキイはブックトラップのほうへと近づく。


「実はこいつの行きつけの本屋が一夜にして本が全部消えていたらしいんだよ。本棚には“鍵”がかけられていたはずなのに全部解除されて本だけなくなっていたんだよ。そのかわりに“本は頂いていきます。ブックトラップ”ってメモが書かれていた」


「たしかにそれは僕が書いたメモだよ」


 ブックトラップはあっけなく応えた。


「ほら!やっぱり盗んだんだ! 白状したぞ」


 シュセイがブックトラップを指さしながらいう。


「失敬な! ぼくはただ買っただけだよ。すぐに持ち帰ることができなかったから後日受け取りに行くようになってたんだよ」


「じゃあ、あのメモ書きはなんだい!?」


「あれは本屋に入ったら彼女がいなかったんだよ。でも、ちゃんとぼくが買うことになっていた本がまとめてあったから受け取ったんだよ。でもなにも言わずに帰るのは悪いだろうからとメモ書きしてたんだよ」


「うそつけ! ぜったいにうそだ!」


「うそじゃない! 本当のことだ」


 先程まで穏やかだったブックトラップの口調な粗くなっていく。


「証拠をみせろ!  証拠を!」


「証拠ならここにある」


 ショセイに言われるままにブックトラップは1枚の紙を突きつける。


 その紙はヒストリアの店から本を購入したことを示す領収書だった。









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