ドラゴンを連れた鍵師と読書家は本を探しに行く16

「ちょっと見せてみろ」


「どうぞ」


 キイはブックトラップから領収書を受け取る。そこには女性らしいきれいな字で書かれた手書きで購入した本の冊数と金額とヒストリアという名前が書かれていた。


 キイはヒストリアの筆跡を知らない。ゆえにこれが本物の領収書なのかわからなかった。 


「捏造だ! 君が書いたんでしょ」


 どう判断すべきか迷っていると、ショセイがキイの手から領収書を奪い取り吟味した。


「ヒストリアの筆跡?」


 何度もヒストリアの本屋で本を購入しているショセイは手書きの領収書を何度も見ている。ゆえにそれが紛れもなくヒストリアの筆跡だとわかる。


「いやいや、真似て書いたんでしょ!」


 それでも納得いかないらしい。


「本当だって! 君もそれがヒストリアの書いたものだと理解したんでしょ」



「確かに似てるけど、真似て書いた可能性だってある」


「わからずやだな。君は」


 少し怒りぎみだったブックトラップは呆れ果てたような顔になる。


「ショセイ」


 キイはため息を漏らしながら肩をポンとたたく。


「どうやら、ブックトラップは嘘ついてねえみたいだ。ヒストリアの勘違いじゃないのか? それに本がたくさんあったんだろう? どうだ? ここにヒストリアの本屋にあった本が全部あるように見えるか?」


 そういわれてショセイが本の束を見る。


 本は何千冊もありそうな数だ。


 しかし、ヒストリアの店にあった本はその倍以上はあったはずだ。それにヒストリアの店で見かけたことのない本も存在しており、とても本屋にあった本がすべて持ち込まれたように見えない。


「全部なくなってた?」


 ブックトラップが驚いたように尋ねる。


 キイたちが振り返った。


「ああ、全部だ。本が盗まれないように施されていた“鍵”をすべて解除されてたうえに本がなくなっていたみたいだぜ」


「みたい?」


 ブックトラップはキイの表現に疑問を抱く。


「だって結局はヒストリアの言い分だからな。本当はヒストリア自身が本を処分した可能性があるわけだから」


「あっ」



 それを聞いたショセイがハッとする。


「どうした? ショセイ?」


「そういえば、一ヶ月ほど前にヒストリアが大量購入してくれる人が現れたとか嬉しそうに話してた! だからもう少ししたら品切れになるとか言ってた気がする」


「それだよ! それ! つうかなぜそれを早く言わねえんだよ」


「すっかり忘れてた。もしかしたら、ヒストリアもそのこと忘れててブックトラップが盗んだと勘違いしたのかも」


「そういうことか。はた迷惑な女だな。ブックトラップ。勝手に犯人扱いして悪かった」


 キイはショセイからブックトラップの方を振り返る。するかブックトラップはなぜか難しい顔をしていた。


「どうした?」


「いや、なんでもない。君たちが謝ることじゃないよ。誤解されたままでは僕もいい気がしないからいまからヒストリアのところへ会いに行こうと思う」


「ああ、そうしたほうがいいと思うぜ」


「ではさっそくいくよ。君たちはどうする? あっちの人たちは先に進むみたいだけど、君たちも一緒に?」


「イヤイヤイヤ」



 ブックトラップが尋ねるとキイたち5人と一匹は息を出せたかのように頭を横におもいっきりふる。


「そうだろうね。この先は危険だから君たちのようなランクの低いものには向かないね」


「ランクの低い? なんでわかるんだよ」


「わかるさ。ここへくる道中をみてたらわかる」


「みてたんかーーい!」


「ああ、それがぼくの楽しみでもある。ぼくは冒険者への支援者だからね」


「はあああ?」


 キイたちは思わず声を上げ、ムメイジンだけが意味がわからずキョトンとしていた。


「なにそれ?」


「そのままの意味だよ。冒険者がより良くレベル上げできるよう故意に仕掛けを作ったり、妖魔を放ったりする人たちのことよ。もちろん冒険者が危険を生じさせない程度にね」


 アイシアがそう説明する。


「ということは、この先にクライシスが存在しているわけだな」


 すると部屋の外にいたはずのアレックスたちが姿を現した。


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