ドラゴンを連れた鍵師と読書家は本を探しに行く17

「ああ、そういうことになるね。君たちはそこに行って確かめるんだね」


 アレックスのクライシスが存在しているのかという言葉にブックトラップははっきりと答えた。


「どういうこと?」


 ムメイジンが尋ねる。


「冒険者への支援者はクライシスの監視者あるの。いつ発動しても対応できるようにつねに冒険者ギルドに状況を報告しているわけ」


「ふーん」


「おまえ、わかってんの?」


 キイがたずねるとムメイジンは微妙だと苦笑いを浮かべる。


「まあ、俺もよくわかんねえけどな」


「あんたもかーい!」


 キイの言葉にアイシアが思わず突っ込む。


「じゃあアイシアは詳しくわかるのか?」


「わかるわけないわ。別にクライシスハンターになりたいわけじゃないし」


「重要なんですう」


 すると先程まで黙っていたペルセレムが口を開いた。


「ものすごく重要なんですぅ。クライシスの監視者もクライシスハンターにとってはものすごく重要! 早めに発動がわかっていたら対処も早くできるし、被害の拡大も防ぎます! もちろん私達冒険者も重要です。監視者はあくまで監視者。戦える力がない人が多いんです。だからある程度戦える冒険者が本当にクライシスが発動してるかどうかを確認しに行くんです。確認できたらクライシスハンターへ迅速に連絡するです」


 キイたちが物珍しげに見ているとペルセレムがハッとする。


「え? えっと、えっと、私の顔になにかついてますか?」


「いやあ、いつになるしゃべるなあと思ってさ」



「ひえええぇ! すっすみません!  すみません!」


 ムメイジンの言葉でペルセレムは頬を赤くしながら何度も頭を下げた。


「いやいや、謝らなくていいって」


「まあ、だいたいあってるなあ。君はクライシスハンター志望なわけ?」


 ブックトラップか尋ねる。


「はい! わたしはクライシスハンターになってフェルド様のお近づきになりたいんです」


「フェルド? フェルド=ニートか」


 その名前にアレックスが反応する。


「知り合い?」


 キイがたずねると困惑の顔を見せる。


「知り合いほどではないが昔“大会”で戦ったぐらいだよ」


「大会?」


「知らないの? 毎年冒険者全員を対象にやってる大会のことよ」


 ムメイジンの質問にランがそう説明した。


「なんか聞いたことある。たしかもうすぐですよね」


 ショセイがいろんなメモを書いた本を開きながらいった。


「お前たちもでるか?」


 アレックスがたずねると。5人とも首を横に振る。


「そんな謙虚にならずともいいじゃないか。出ると良いよ。ランクも上がるし、いい経験になる」


「話はここまでにしてくれるかい?」


 するとブックトラップが両手を叩きながらいった。


「そろそろ、ヒストリアの下へいこうと思う。そのまえに君たち」


 アレックスたちの方を振り返る。


「君たちを目的の場所まで案内しないとね。その間ちょっとまっていてくれるかな?」


 ブックトラップはキイたちのほうをみる。


「ああそのかわり逃げるなよ」


「逃げるも何もここは僕の家さ。とりあえず、ここから出てくれるかい。温かいお茶とおかしを用意するよ。持っている間くつろいでくれ」


 それからブックトラップは言葉通り温かいお茶とおかしを用意するとアレックスたちとともに家を出ていった。


 それからさほど時間がたたないうちにブックトラップ一人で戻ってきた。


 アレックスたちはしばらくクライシスのあるといわれる場所で探索してからそのまま報告にクライシスハンターの本拠地のあるアメシスト国へ向かうとのことらしい。


 そういうわけでキイたちもブックトラップに送られる形で首都へと戻ってきた。


 それからブックトラップとヒストリアの話し合いが行われ、誤解は解けることになる。


 ただひとつ疑問があった。


「でも本屋を閉めないといけないほどに本を購入したやつってどんなやつだったんだ?」


 キイがたずねるとヒストリアがしばらく黙り込む。


「良くわからないのよ」


「わからない?」


「だってその人ピエロの格好していたんだもん」


「ピエロ?」


 その言葉にキイの前に現れたピエロの姿を思い浮かべる。白い世界でキイになにかを語りかけてきた怪しげなピエロ。なぜかその謎の人物が本をすべて持っていったように思えてならなかったのだ。


 とりあえず依頼は一応完了したということでヒストリアからいくらか報酬をもらうことになった。その中にはシヨセイが欲しかったという本も含まれてのだ。


「やっと手に入れたぞおおお!」


 その本を手にしたシヨセイのテンションはキイたちが思わず引いてしまうほどだった。


「そんなに欲しかった本か?」


「もちろんですよ! どうしてもほしかったんです」


「どんな本だ?」


「これです! これ“カリスの青い花”の原本なんです」


 そういってショセイはまるで幼い子供のように笑顔を浮かべるのであった。




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