本の行方
「えらく大量の本を持ってきたものだなあ」
「いいじゃないですか〜暇でしょ〜」
目の前には部屋を埋め尽くさんばかりの本の山が存在していた。それゆえに来訪者の姿が全く見えず、飄々とした声だけが聞こえてきていた。
「暇は暇だが、照らすものがないのにどうやって読めというのだ?」
部屋の主がいうようにその部屋には明かりを照らすための窓もなければランプもない。ただ冷たい石の壁に囲まれているだけだった。
「そんなこと〜本読むには関係なーい」
「明かりもなく読めと?」
「なにいってるんすか〜。なければ作ればいい。この世界はどんな世界ですか〜」
「どんな世界とは?」
「魔法ですよ。魔法。この世界には魔法が溢れている。ならば、魔法で読めるようにすればよいではないですか?」
「それができるのなら苦労はせんよ。なぜ私がこんなところにいると思っている?」
本の向こうの来訪者はしばらく黙り込む。男の言葉への回答を考えているのだろう。
「確かに旦那はいま魔法が使えなかったんすね。でも、大丈夫。近いうちに旦那も魔法が使えるようになるはずっすよ」
「なぜそう思う? おまえが魔法を使えるようにしてくれるのか?」
そう尋ねると同時に男の目の前にあった本の山が雪崩のように崩れ落ち来訪者の顔が見えてくる。
そこにはピエロの格好をした人物が満面の笑顔を浮かべながら立っていた。
「もちろんっすよ。ボクはそこために存在してる。ちゃーんと旦那を出してあげますよ。この牢獄からね。だから待っている間に呼んで見て下さいよ。とくにこれ!」
ピエロが指を指すと一冊の本が光出しふわりと浮いて男の方へと向かっていく。男はそれを手に取る。
「ほほお。“カリスの青い花”か。これは懐かしい」
「そうそう懐かしいでしょ。この世界の誰もが知ってる童話っすよ。たまにはよいのでは?」
「ふん。こんなものすぐ読み終わるぞ」
「そうっすね。でも読んでみてくださいよ。旦那にも幸運が回ってくるかもしれないっす」
「まあよい。どうせなにもしてないのだからな」
男は本をめくった。
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