前夜祭4 色②

 そういうことで“色”別に分かれて会食をすることになったのだが、そので一つの問題が生じる。 


 ほとんどの人たちは自分が何色に属しているのかを知っているのだが、知らない者もいるのだ。


「そういえば、俺って何色なんだろう?」


 そうつぶやいたのは“色”の存在を初めて知ったムメイジンのような異世界人ではなく、シャルマン国生まれのシャルマン国育ちであるキイだった。


「えええ!?」


「知らないのおおお!?」


 キイのつぶやきにアイシアやショセイが思わず叫んでしまう。


「知らねえよ。だって俺はど田舎で育った鍵師で魔力なんてほとんどないんだよ。知る機会なんてないさ」


「魔力なんて関係ないですよ。色分けなんて血筋が大きいんですよ。なにせこの世界って部族を色で表現してるじゃないですか」


「たしかにショセイの言うとおりだな」


「そこおおお!しゃべってんじゃねえ!」


 すると階段の方から怒鳴り超えが聞こえてきた。振り向くと俺様系ライオンのぬいぐるみがキイたちを睨みつけているではないか。


「こら! お前は黙ってなさい」


 ティラシェイド王子がライオンのぬいぐるみの頭を鷲塚りみすると後ろにたつアランに投げつける。


「王子だからって乱暴に扱ってんじゃねえ!」


 アランの腕の中で騒ぎまくるライオンのぬいぐるみなど無視して王子はキイたちのほうへと近づいてきた。


 今度はあのライオンの代わりにティラシェイド王子が叱咤するのかとキイたちが身構えているとホールの中央にある魔法陣のところで足を止める。


 どうやら騒いでいたキイたちを怒りにきたわけではないらしい。


「やはり自分の“色”を知らない者がいるようだな。ならば君たちの“色”を判別しようと思う」


「“色”判別?」


 どうやってやるのだろうかとキイが怪訝な顔でティラシェイドのほうをみる。ティラシェイド王子は参加者を見回している。どうやら王子にとってはキイたちが騒いだことなど気にもしていないようだ。



 ホッとしたというよりも自分にまったく興味を示さないことになぜか寂しさを覚えた。


 同時になぜかキイの脳裏に父の顔が浮かぶ。


 そのうち帰ると手紙を送ってはいたのだが、結局のところ冒険者になってから一度も帰っていない。


(今回の大会終わったら里帰りでもしようかな)


 キイはそんな事を考えていた。


「というわけで一人ひとりこの魔法陣に入ってもらう。この魔法陣が君たちの“色”を判別し各会場へと案内してくれる」



 ティラシェイドはそう説明すると魔法陣から出ていく。


「ではさっそく名前を呼ばれたら入ってください」


 ティラシェイドに続くようにアランはいまだに暴れまくるライオンのぬいぐるみを押さえながら階段を下りてくる。


「ではまず最初は」


 アランがパーティ名と名前を読み上げると次々と冒険者たちが魔法陣の中へと入っていく。その直後魔法陣が七色に光だし中に入った冒険者たちの姿を消していく。


「転移魔法ですね。ということは青の民が描いたものでしょうか」


 ショセイがそう説明する。


「青の民? なんじゃそりゃ」


 ムメイジンが尋ねる。


「青の民は転移や飛翔魔法を得意とする一族のことさ。たしかスカイ=フライハイトも青の民だったんじゃないかなあ」


 キイは次々と転移していく冒険者たちをみているティラシェイド王子を見ながら、彼とともに魔王討伐に参加したスカイ=フライハイトの青い髪を思い浮かべる。キイはスカイ=フライハイトにあったことはない。噂程度でしか知らず、ただ青の民の特徴である青い髪をしている異世界からやってきた人物という知識だけだ。ただ想像の人物が脳裏に浮かんでいるに過ぎない。


 それでもなぜか明確に表現できてしまう自分に思わず首を傾げる。




「続きまして、“史上最弱”のキイ=ロックウェル。お入りください」


「はい。じゃあ、先に行くぞ」


「ああ」


「また後で」



 キイはパーティの仲間たちに見送られて魔法陣へと入っていく。その直後にキイの周りは七色の光りに包まれ一瞬のうちに仲間の姿が消えていき、また別の景色が映し出された。


 見覚えのない部屋と数人の冒険者たちの姿だ。


 どうやらどこかに転移したらしい。


 光が消えてキイが魔法陣から一歩出るとそこには一人の男がにこやかな顔で立っている。


 青い髪をした青年。


「青の民?」


「ようこそキイ=ロックウェル。“青”色の部屋へ」


 男はまるで少年のような笑顔をキイに向けてきた。



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