前夜祭3 色①

 玄関をくぐり抜けるとすぐに目につくのは正面にある横幅の広い階段。天井にはシャンデリアが吊るされており、壁はなにも装飾もされていないシンプルな白だった。その代わり床に広がる絨毯には色とりどりの装飾がほどこされているようだ。しかし冒険者たちで埋め尽くされている広い玄関ホールであるために装飾は足によって見え隠れしているゆえにどんなものが描かれているのかはっきりとはわからない。


「皆サーンニオ願イガアリマス。ドウカ中央ヲ空ケテクダサイ」


 なにやら鳥たちがホールの中央辺りにたっていた冒険者たちを追い払おうと翼をばたつかせている。その翼が冒険者たちの顔や頭にあたり、自然と中央付近から離れていく。すると中央付近に描かれている4つの魔法陣らしきものが見えてくる。赤、青、緑、黄の4つの色で描かれた魔法陣の中央には精霊らしいものが描かれている。


「四大精霊ですね。赤は火の精霊サラマンダー、青は水の精霊ウンディーネ、緑は風の精霊シルフ、黄は地の精霊ノーム」


 ショセイが興味深げに魔法陣をみながら呟く。


「中央はなんだ?」


 4つの魔法陣の中央にもなにか描かれている。


「なんか太陽っぽいなあ」



 その絵をみたムメイジンが言った。


「太陽というか光でしょうね。光の精霊キーラ」


「皆の衆! よく来てくださった! これよりパーティを行おうではないか」


 すると突然どこかで聞いたことのある偉そうな声がかこえてくるではないか。キイたちが振り向くと階段の前にライオンのぬいぐるみがそれまた偉そうに佇んでいるではないか。


「皆の衆! そのように緊張するでない。まあ仕方なかろう。なにせ俺様の前なのだから萎縮するのも仕方あるまい! ハハハハハ」


 その態度に冒険者のだれもが苦笑いを浮かべている。


「ふざけてないでさっさと説明しないか」


「うわ!!」


 するとライオンのぬいぐるみの背後から一人の男が姿を現すなり、ぬいぐるみの頭を叩く。


 ライオンのぬいぐるみはその勢いで前へ転ぶ。



「いたーい! ひどいですうう!」


 しばらくそのままの状態でいたかと思うとムクッと上半身を起こすなり大泣きし始めたのだ。


「ひどい! ひどい! 俺様を叩くなんていくらアメシストの王子でも許せませんんんん!」


 そういうなりぬいぐるは階段を駆け上がっていく。その先には元ギルドの所長であるアランがいる。ライオンのぬいぐるみが抱きつくと、アランはひょいとぬいぐるみを抱え上げた。


「うわん! うわん! 王子がいじめるるる!」


「よしよし。そう泣かなくてよい」


 アランは泣きじゃくるライオンのぬいぐるみをヨシヨシとなでた。


「アラン。そいつの躾はちゃんとしたほうがいいぞ。なんか俺よりも偉そうじゃん」


「それは申し訳ありません。ティラシェイド王子」



 アランはニコニコと笑顔を浮かべながら謝罪する。


「たく!」


 ティラシェイドは自分の頭を撫でると冒険者たちのほうを振り向いた。その姿に冒険者たちがざわめき始める。


「とりあえず静かにしてもらえるかな。これから今回のパーティについて説明するから話を来てくれると嬉しいんだけどな」


 ティラシェイドがそういうと冒険者たちは静まり返りティラシェイドのほうに集中する。


「なんか一気に静まり返ったな」


 ムメイジンがいう。


「そりゃあ、そうだろう。アメシストの王子の言葉だからな」


 キイが当然のようにいうもムメイジンは怪訝に首を傾げるばかりだ。


「みんなありがとう。じゃあ、説明します。今回のパーティは色別に分かれて行うことにしました」


 その言葉に再びざわめき始める。


「色別ってなんだ?」


 するとムメイジンに話しかけてきた金髪の女が手を挙げて尋ねた。



 その反応に王子は彼女が何者かを模索するように視線を向ける。


「君は知らないようだな。ラノベラーってところか。簡単に言えばこの世界で暮らす人間には5つの“色”をもっているということさ。その“色”を持つ同士で交流を深めてもらおうというわけだ」








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