鍵師はドラゴンの子と出会う1スタート
「じゃあ、行ってきます。父さん」
キイが15歳になった翌日、冒険者になるべくして生まれ育った村を旅立つことになった。
冒険者には特に年齢制限はない。年が若かろうと年輩だろうと本人のやる気があればなれるのだ。
ゆえに冒険者になると決めた10歳のころでも都にあるギルドでちゃんとした手続きをしたらなれたことになる。しかし、決意してから5年もの月日が流れたのは父親が15歳になってからだとキツく言われたこともある。
なぜ15歳まで村を出ることを禁じたのかはわからないが親としては幼い子供を一人都へ送り出すことがためらわれたのだろう。もしそうなら親もついていけばいい話なのだが、父は決して村を出ない。
なぜ村を出ないのかと聞いたことがあったのだが、うまくはぐらかせてしまった。
それ以来聞いていない。
だが、やはり気になる。
だから、旅立つ前にもう一度尋ねてみたが答えは同じだった。
ただ出ないのだという。
村が好きだから出ないとはいっていたが、出ないのではなく出れないのではないかとキイは思った。なぜなら母が行方不明になったというのに出ようとしないのが不自然だからだ。
普通ならば都へ飛び出して母を探すはずだ。
それなのに父はそうしなかった。
最初はなんて冷たい人なのだろうと思ったのだが、あるとき母の名前を呼び泣いている姿を見てしまってからはなにか深い事情があるのではないかと感じるようになった。
いつか話してくれるのだろうか。
一生教えてくれないかもしれない。
知りたい。
でも知ってはいけないことなのか。
キイにはわからなかった。
ただもう追求できない。
なぜならキイは親元を離れるからだ。
キイはもう考えることをやめた。
それよりもいまからスタートを切ることになる冒険者としての人生を楽しめばいい。
どんなことが待っているのだろうか。
珍しくワクワクしていた。
父は村を出ない。
だからといって息子であるキイが出たことがないわけじゃない。
何度か友人たちとともに遊びにでたことはある。そのたびに父はあまりいい顔をしなかった。
だから、今回冒険者になるために村を出ていくことを承諾してくれたことが意外に思えたぐらいだ。
ともあれキイは冒険者になるために都にあるギルドへ向かうことになる。
出発のときには父をはじめとする村の人達が集まってくれた。かなりのねぎらいを受ける中でやはり父は心配そうな顔をしている。
「父さん。ちゃんと手紙も書くし、たまには帰ってくるからさ。あんまり寂しがりなよ」
「なにをいっている。寂しがっていない。さっさといけ」
そういって父はキイに背中を向ける。
「じゃあ行ってきます。みんなげんきで」
キイは村の人達に大きく手を振りかけだした。
父が小さくなっていく息子の後ろ姿をみながら涙を浮かべていたことなどキイは知らない。
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