前夜祭6 めがね

「黄色ってメガネをかけれているかで選ばれたの?」


 その少年はパーティ会場へ転送されたときの感想を口に出した。十代前半ぐらいで身長はショセイと変わらないほどなのだが、すでに二十代半ばほどになっているショセイよりもずいぶんと成熟した印象のある少年だった。


 少年がいうようにショセイが転送された黄の部屋にいる冒険者のほとんどがなぜかめがねをかけているのだ。いや全てといって過言ではない。ショセイが見える範囲にはメガネをかけていない人などいない。


「もしかしてメガネで分けられたのかな?」


「みなさーん! 黄色の部屋へようこそアル!」


 ショセイが首を傾げていると当然ハイテンションな声が響き渡る。


 そちらのほうへと顔を向けると部屋のちょうど真ん中あたりにあるステージの上にはメガネを掛けた黒い髪の男の手の中に収まるメガネを掛けたさるが両手を振る姿があった。


 黒い髪の男はさきほど屋敷の外で王子のそばにいた男。ショセイはクライシスハンターの総監のアキナオという名前の男だと即座に理解した。


 アキナオはティラシェイド王子とともに魔王と戦った英雄の一人でムメイジンと同じ異世界からやってきた人物だ。すぐれた知性でティラシェイド王子の軍師として活躍していた。魔王討伐後もこの世界に残りアメシスト王国に仕え、魔力をさほど持ったないにも関わらず魔法騎士団の最高峰とされるクライシスハンターの初代総監に抜擢された。


 彼の腕に収まっている猿は知らない。


 一体何者なのだろうかとショセイは思わず本を開いた。


「へえ、君って読書家なんだね」


 すると少年が本を覗き込んできた。


「うわっ」


 ショセイは思わず本を閉じる。


「ごめん。脅かすつもりはなかったんだ。でも、本を読むことって大事だよね。本にはたくさんの知識がつまっている」


「君も読書好きなの?」


「そうだね。たくさん読んだよ。だって俺は昔記者やってからね。たくさんの記事も書いたんだ」



 少年は懐かしんでいるかのような遠い目をした。


「君っていくつ? もしかしたら僕よりもずっと年上なの?」


「13歳だよ」


 そういいながらもどこか含んだような笑顔を浮かべた。


「はいはい。おしゃべりはそこまで!」



 メガネを掛けた猿はパンパンと手を叩くとアキナオから降りると仁王立ちになる。



「みんなも驚いたであろう! この部屋に入ったらなぜかメガネをかけている自分がいるんだからな」


「へっ? そうなのか?」


 ショセイは周囲を見回す。すると冒険者の中にはかけてきるメガネをはずそうとしている人もいる。しかし、メガネは取れない様子だ。



 本当に取れないのだろうかとショセイも愛用しているメガネを取ろうと試みるもたしかに取れない。なぜかまったく目から離れようとしないのだ。



 どうやらこの部屋に入った直後にメガネが取れないように魔法をかけたようだ。


 ショセイはもう一度猿のほうをみる。


 猿はまるで勝ち誇ったようにドヤ顔を浮かべており、その後ろにいるアキナオは呆れ返っているようだ。


「そう! 皆にはメガネがとれないように魔法をかけさせてもらった」


「はあ?」


「なんで!?」


 だれもが疑問を投げかけたのはいうまでもない。


「それはただの趣味!」


「はあ!?」


「なんだよ! それ!」


「というわけでアキナオ! 後を頼む!」


 すると当然猿はどこかへ消え去った。


「ちょっとまてよ。僕に丸投げかよ!」


 アキナオは慌てふためく。


 しかし深呼吸するとすぐに冷静になり、ショセイたちをみる。


「申し訳ありません。アーロンの悪ふざけを許してあげてください。アーロンが消えたのでメガネはとれるはずです」



 そういわれてメガネに触れてみるとさっきまで接着剤でがっちり固定されているようにとれなかったメガネがするなり取れた。



 それにほっとしていう冒険者たちの姿もみられた。


「やっぱり黄色=メガネをかけている人じゃなかったか」


「そうでもないよ」


 ショセイは少年の方をみる


「よくみてごらん」


 少年がいうままに再び周囲をみまわすとやはりメガネ率が多かったのだ。


 アキナオもメガネを掛けている。


 ショセイも昔記者をしていたという少年もメガネをかけている。


 見回す限り、この部屋にいる冒険者の半分以上はメガネを掛けていたのだ。



「やっぱり黄色=メガネ族だったかも」


 ショセイは思わずそう呟いた。





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