ドラゴンを連れた鍵師のパーティーに加わった異世界人に名前がつきました

「ところでその自称異世界人さんの名前はなんというのでしょうか」


 キイたちが史上最弱というパーティー名のままなのかと落ち込んでいると、受け付け嬢がそんなことに気を使うことなく、異世界からきた少年に尋ねた。


「名前? おれの?」


 キイはこの少年の名前を聞いていなかったことを思い出す。


「おれの名前? なまえ……ナマエ……」


 少年は眉間にシワを寄せながら考え始める。


「なにやっているのかしら?」


「俺に聞かれても困る」


 両腕を組ながらうなりはじめた。


 名前を聞かれただけでなぜ考えなければならないのかキイたちは訝しむ。


「もしかして……」


 すると、ショセイはなにかに気づいた。


「どうなさいましたか? お名前ですよ。あなたの名前」


 受け付け嬢はなぜかしぶる少年に苛立ちを覚えているようすで少し口調がキツくなる。


「あのおーー。もしかしてーー」


 ショセイがためらいぎみに口を開いた。


 皆の視線がショセイに注がれる。


「君って名前を覚えてないの?」


 その言葉に一同が目を丸くする。


「いやいや、そんなわけ。うーん」


 どうやら本当に自分の名前を覚えていないらしい。


 キイたちは困惑しながら、お互いの顔を見合わせる。


「名前を覚えてないってどういうことだよ。まあ、とにかく、お前はどこからきた?」


 キイは一息つくと異世界人に問いかける。


「異世界だ!ここじゃない別の世界で日本っていう国だ」


「ニホン?」


 その言葉にいち早く反応したのはショセイだった。


「知っているの?」


 アイシアが尋ねる。


「たしか、スカイ=フライハイトが育った国の名前がそうじゃなかったかなあ」


 ショセイは確認しようと持っていた本を開く。


「そうそう。そうだよ」


 ショセイは目を輝かせながら異世界人をみる。


「なに? こいつはその英雄さんと同じ国の人間ってこと?」


 キイたちは異世界人をじっとみる。


 異世界人は意味がわからずに首を傾げる。


「じゃあ。じゃあ、君は何歳?」


 本を片手にショセイが尋ねる。


「うーん、このまえ、十七才になったばかりだ!」


「うっ、俺よりも年上かよ。年下と思ってた」


 キイが思わずにそういってしまったのは、見た目が若かったからだ。どうみても15歳のキイよりも年下に見える。


「君は学生?」


 ショセイが再び尋ねる。


「高校生! 都内の高校に通う二年生で学校から帰ろうとしたらトラックに跳ねられて気づけばここにいたんだ」


 彼はスムーズに話を進める。


「それできみの名前は?」


「俺の名前は……。あれ? なんだっけ?」


 名前を尋ねると急に口ごもる。表情をみるかぎり、ごまかしているわけではない。


 本当に覚えていないようだ。


 名前だけ覚えていないなんてどういう状況だろうかとキイたちはお互いに顔をみる。


「そういえば、名前を奪う妖魔がいたような気がするわ」


 さっきまで黙っていた受付嬢が口を開いた。


「名前を奪う妖魔?」



 ショセイはすぐさま本のページをめくり始める。なんページもめくるのだが、その情報は載っていない様子で眉間にシワを寄せる。


「最近発見された新種の妖魔のようです。その本には載っていないのも当然ですよ」


 受付嬢はショセイのもつ本をしめしながら言った。


 その言葉にキイたちはショセイのもつ本をみる。


 確かに古い。


 ショセイが読み込んでいるせいもあるのが、表紙をみるかぎりでは一昔前の本なのは明確だった。


「そういえば、最近新刊買ってなかったなあ」


 ショセイはため息をつきながら本を閉じる。


「それなら仕方がありませんね。名前を取り戻すまで仮の名前をつけてあげてください」


「それでいいのか?」


 キイが尋ねる。


「書類上では本名も必要なのですが、今回は特別です。その代わり、期間は半年です。半年以内に本名を見つけてください。もしも、期間がすぎたら、登録抹消しますからね」


「わかった!! だからお願いしまーす。それでおれの仮の名前は……」


「あっ自分で名付けるのはだめです。必ず他者につけてもらってください。そうですね。とりあえず、パーティーを組む彼らに尋ねてください」


 異世界人は受付嬢の言葉にキイたちへと視線をむける。


 キイたちは困惑していた。


 突然名前をつけろと言われても思い付くはずがない。


 さて、どうしたものかと考えていると、突然

 リドルが受付嬢のほうへと近づく。


「じゃあ、ムメイジンでお願いしまーす」


 リドルは得意げな顔をしていった。


「だって名前がわからないんだからさあ。そのまんまでいいじゃん。ムメイジンかっこよくない?」


 異世界人はきょとんとした顔でリデルをみていたが、たちまち目を輝かせる。


「ムメイジン! かっけえええ! 気に入ったああああ」



「かっこいいか?」


 キイは思わずに顔を歪めた。

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