ピエロと鉄格子の男
ピエロは鼻唄を奏でながら、真っ暗な廊下を一人歩いていた。
人の気配はない。
ピエロの軽やかな足音だけが響き渡っているだけだ。
いや違う。
人がいないわけではない。
いるのだ。
ピエロの後ろには無数の人の姿がある。ただ誰一人立っているものなのおらず、重なりあうように倒れているのだ。
それだけではない。よくみると壁に引き詰められたレンガがくずれ、人びとは下地気になっている。そこには生命の息吹を感じることもできず、ぐちゃぐちゃになった世界がピエロの通った道になるか拡がっているだけだった。そんなことも気にせずにピエロはスキップしながら歩き続けていく。
やがて階段を降りていく。
「よお、久しぶりだねえ」
一番下まで降りたピエロは視線の向こうにある鉄格子の向こう側にいる人物に話しかける。
「なにしにきた?」
すると、鉄格子の向こうから男の声が聞こえてきた。
「久しぶりにあったのにせつないねえ」
「なんのようだ?」
鉄格子の向こうの男は敵意丸出しに質問するも、ピエロはとくに気にしたようすもなく楽しげに笑う。
「君はいつまでここにいるつもりかい?」
「いかくているわけじゃない。出れんのだよ」
「うーん。そうだよね。そうだよね。鍵がしっかり掛かっちゃってるんだもん」
「お前は私を笑いにきたのか? ナナシ」
「いやいや、そんなことないよ。ぼくは君を心配でならないんだよ。だから様子を見に来たに決まってるじゃーん」
「ふん。どうだかな」
「あれ? あれれ? 疑ってるう? うたがっているんですかーー?」
「お前は気まぐれだ。こうなったのも貴様が原因ではないか」
「いやだなあ。ぼくは別に何もしてないよーん」
「お前がやつらを連れてきたのだろう? お前が連れてこなければこんな惨めな思いしなかった」
「うーん。たしかにあるかなあ。でも、まさか君が負けるなんて思わなかったんだよ。きみには戦いを楽しんでもらおうとしただけじゃん」
ピエロはふて腐れたようにそっぽを向く。
「ふざけるな」
「それよりもさあ。君はあいつらに仕返ししたくない? ついでに奪っちゃいなよ」
男は眉を歪めているとピエロが立ち上がり、両手を大きく広げる。
「決まってるじゃん! 君が手に入れ損なったものだよ。それだけじゃ足りないかな。せっかくだから、ぜーんぶの世界をくちゃくちゃにするのもいいかもよ」
ピエロの提案に鉄格子の向こうの男が黙り混む。
「あれれ? 君は知らないの? 簡単なことさ。いろんな世界をつなぐ扉の鍵を解除しちゃえばいい。そうすれば、もうあらゆる世界が入り交じって、混ざりあって、混沌へとかわるはずさ。そうなれば、どうなるんだろうね」
ピエロは心から楽しんでいるらしく、目を輝かせる。
「くくくく。それはよいかもしれん。されど、どうする? この鉄格子は破れんぞ」
「大丈夫。この鉄格子を破るすべは見つけてきたよ。ちゃんと約束もしてきた。いまは無理だけど、いずれここも壊せるし、あらゆる次元を遮るものは取り払われて混沌の世界になるはずだよ」
ピエロの言葉に鉄格子の向こうの男は口角をあげニヤリと笑みを浮かべた。
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