ドラゴンを連れた鍵師と異世界人

「おれは異世界からきた高校生だ」


「はい?」


 その男がそんなことを言い出すものだから、キイ=ロックウェルは開いた口がふさがらない状態になった。


 たしかに彼の着ている服装は奇妙だ。どうみてもこのシャルマン国で身に付けている衣装とは異なる服装をしている。しかし、この国では珍しいというだけで隣の国のアメシスト王国の学校なんかで採用している制服だ。


 異世界というよりもアメシスト王国からきたというほうがしっくりいく。


 それなのに彼は「異世界からきた」といいはる。


「ねえ、キイ、異世界ってなに?」


 すると隣で彼の事情を聞いていたアイシア=ファランギーノがそう問いかけてきた。


「異世界というのは聖域の向こう側タカマガハラのことだよ」


 キイの代わりにショセイ=アズベルトが本を読みながら答えた。


「「聖域の向こう側タカマガハラ?」」


 キイとアイシアの声が重なる。


「僕もよく知らないけれど、この世界とはまったく違う世界のことさ。その世界では魔法とかいうものがなくて科学とよばれるものが発展しているらしいよ」


「そんな世界があるのか? なんか夢物語みたいだなあ」


「あるらしいよ。レスピア山脈にある神聖霊山レールゴッドや竜背国に“タカマガハラ”を結ぶゲートがあるという噂があるんだよ」


「じゃあ、こいつはレスピア山脈からきたということか?」


 キイの頭の上を飛んでいたドラゴンのリデルは少年のほうに近づく。


「なんだこれ? もしかして、ドラゴン? ドラゴンか?」



 少年は目を輝かせるなり、「本物だ。本物のドラゴンだ」とリデルの体を両手で捕らえた。


「うわうわ、離せーー」


 リデルは喚くが、少年は一向に離そうとせずに無邪気な笑顔を浮かべながら、リデルの顔を見ている。



「ところであの人、どこで拾ってきたの?」


 アイシアが尋ねた。



「うーん、洞窟の中かなあ」


 そう答えながら、キイはほんの数時間前のことを思い出していた。


「洞窟? なんでそんなところに?」


「あーー。キイ、僕らに抜け駆けして冒険にいったなあ」


「違う。違う。ただの散歩」


 そう否定するがもちろん信じてもらえるはずがない。しかし、冒険ではないことは確かだ。


「違う。違う。食料探しだよ」


 そう答えたのはリデルだった。


「リデル!!」


「「食料探し?」」


 どういうことなのだろうとアイシアとショセイは首をかしげていると、キイが参ったなあと頭を抱える。


「だってしょうがないじゃん。俺たちってビンボーじゃん。金ないよね。金ほとんどないよね」


「「そういわれてみれば」」


 二人は自分たちの財布をみる。


 そこにはほとんどお金が入っていなかった。


 アイシアは銅貨三枚


 キャセイも銅貨五枚


 そして、キイが銀貨一枚というものだった。


 これでは生活することができない。冒険のための必要物品さえも買えない状況だった。


 それもこれもあの受付嬢が「史上最弱」なんてパーティー名をつけたせいだ。



 おかげで依頼がほとんど入らず、冒険以外のバイトをしているがそれでも1ヶ月のやりくりがうまくいっていない。


 どうにか食費を削るためにキイは時折山に登って山菜なんかをとっていたのだ。


「「そうだったんだーー。知らなかったーー」」


「おまえらねえ」


 キイはあきれ返る。


「それで見つけたわけね。この人」


「そういうこと。洞窟のなかにぶっ倒れていたから連れてきた」


「本当にキイってお人好しだよね」


「別にそんなことないよ。さすがにあんなところに倒れていたら見てみぬふりできないだろう? 夜になると魔物出てくるしさあ」


 たしかにキイの言うとおりだ。


 あの辺の山には魔物が多くすんでいる。普段はとくに人間を害することはないのだが、借り時の夜中になると凶変する魔物もいるのだ。結界もはらずに洞窟で倒れているなんて、魔物に襲ってくださいといっているようなものだった。


「たしかに私も助けるわね」


 アイシアはそんな状況を想像していった。


「それでどうするんだい?」


 ショセイは本から異世界からきたという少年をみる。


「どうしよう? どうしたらいい?」


 キイは逆に聞き返す。


「なにも考えてなかったの?」


 アイシアの言葉にキイはうなずく。


「こういう場合は……」


「なあなあ、あんたたち」


 アイシアがいいかけたときに、異世界からきた少年が口を開いた。


 三人と一匹の視線がそちらに注がれる。


「あんたらって冒険者?」


 三人と一匹は一度お互いの顔を見合わせる。


「そうだけど?」


 アイシアが答えた。


「おれもパーティーにいれてくれよ。おれも冒険者になりたいんだよ」


「「「「はいっ?」」」」


 呆気に取られる一同に対して、少年は満面の笑みを浮かべていた。











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