前夜祭8

 緑の部屋にたどり着くことはわかりきっていた。なぜならアイシアの“色”が緑だったからだ。


“色”というもののほとんどが遺伝的な要素で決まることが多い。ゆえに先祖代々アイシアの家系は“緑”に分類されている。とはいっても純粋な“緑”ではない。純粋な“緑”というのは見た目でも緑の髪と緑の瞳をしており、自然にいきる精霊たちと契約して操ることのできるとされる“緑の民”のことだ。アイシアの家系はただ“緑の民”の血が混じっているから“緑”に分類されているだけで精霊使いではない。少し魔力のあるだけの平凡な人間の集まりだ。


 そのなかで頭角を現したというならば、兄のアレックスだろう。一家の中で一番強力な魔力をもっており、剣の腕もピカイチ。人当たりもいいし、見た目もよいから村人からも人気がある。何度も女の子から告白された姿を見たことがある。だからといって特定の女性と付き合うつもりもなく、いつも断っている。その理由は自分が冒険者になるから付き合うわけには行かないというのだから女性たちはシブシブ諦める。


 上手い断り方なのかはわからないが冒険者になるというのは本気だった。実際に兄は十五になるとすぐ村を出て冒険者になったのだ。かれこれ5年前のこと。それからSSクラスの冒険者になるまでにさほど時間がかからなかった。


 そしてその兄はいまアイシアの目の前にいる。


 目の前にいて冒険者たちの注目の的になっているのだ。女性たちからは歓喜の声も聞こえてくる。


 だからといって、どこかの世界のアイドルのように満面の笑みを浮かべながら手を振るわけでもなく、寧ろまったく感ぜず。ひたすら妹に話しかけているのだ。


 正直ウザい。


 いまのパーティとうまくやれているのかとか、ご飯は食べているのかとか。


 ほんとうに大きな御世話である。


 アイシアは適当に兄の言葉に相討ちをうつ。


「ところでアイシアはキイという男とはどんな関係だ?」


「は?」


 突然の言葉にアイシアは思わず兄を振り返る。


「どんな関係だ? もしかしてデキてんのか?」


「はあ??」


 アイシアはつい大きな声が出た。


「なにいってんのよ!? キイとはただの仲間よ! そんな関係じゃない!」


「そうか。それならいい」


 兄はホッとする。


「皆さん。お集まりのようですね」


 舞台の上から丁寧な口調で話す声が聞こえてきた。


 舞台の上にはアイシアとさほど歳の変わらない人物が穏やかな顔をして佇んでいた。長い金髪で整った顔立ちをしている。どこかの貴族であることはひと目でわかる。


「僕はエドルフ=ファイと申します。アメシスト王国の魔法騎士団をやっております。緑の皆様の集いの場を仕切らせていただきます。若輩者ですがどうぞよろしくお願いいたします」


 そういって深々とお辞儀をする。なかなか教育の行き通った人物である。


「そういうことで時間のある限りお楽しみください」


 エドルフは杖を取り出すとなにやら呪文を唱え始める。するとなにもなかった空間にテーブルと椅子が現れ、次々とテーブルの上に料理が現れた。


 あまりに美味しそうな料理の数々に冒険者たちのお腹が鳴り響く。


「遠慮なく食べてください」


 エドルフがそう声かけるよりも早くだれかが食事を口にする。


「おいしい! まじで美味しい」


 その掛け声とともにだれもが皿をとって豪華な料理に手を付け始めた。












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