ドラゴンを連れた鍵師と読書家は本を探しに行く11

 サボテンの形をした妖魔は行く手を阻むように無数に群がっている。トゲだらけの緑色をした体をゆらゆらと揺らしながらノソノソとキイたちの方へと近づいてきた。

 

「サボテン?」


 ムメイジンが尋ねる。


「違う。サボサボダンスだよ」


 ショセイがのんびりした口調で答えるとムメイジンが「なんかダサくねえ? ネーミング」とクスクスと笑っている。



「あのあのあの! なんでのんきなんですかああ」


 ムメイジンの隣にしたペルセラムが不安な顔をしてムメイジンとショセイを見る。


「だってさあ。踊ってるだけじゃん」


「サボサボダンスは踊るしか脳のないまったく害のない妖魔ですよ」


 そう言われてみれば、サボサボダンスはさっきから踊るばかりだ。ソロソロと近づいてかと思うとトントンと片足上げながら下がっていく。そうかと思えば腕らしい部分が上下に動かしたりグルグルと回っているではないか。


 それにキイたちの前を歩くナンバーワンの冒険者パーティである「アンラッキー」はまったく戦闘態勢を取っおらず、女性からは拍手さえも巻き起こっているではないか。


 どうやらトゲトゲダンスはやってきた冒険者たちを楽しませるだけの存在らしい。


 ある程度踊りを見せたトゲトゲダンスはササっと両端に分かれると「どうぞお通りください」といわんばかりに腕らしいものを先へと向けている。



 キイたちは立ち止まったまま、トゲトゲダンスの示す方向へと向けると先程まで鬱蒼とした道とは打って変わってレンガによってきれいに舗装されていた道が存在していた。


「なんだ? これ?」


 キイが思わず声を上げる。



「この先に魔法使いがいるのかもね」  


「ひえええ!」



 魔法使のアクエリアがどこか緊張した面持ちでいうのと同時に、ペルセレムはなぜか悲鳴を上げながらムメイジンの背中に隠れる。


「どうした?  ペルセレム」


「ひえええですうう。すごいですうう」   


 なぜか興奮したようにいいながら、ムメイジンにしがみつくペルセレム。


「はあ?」


 キイたちは意味がわからずに首を傾げている。


「あなたも魔法使い?」


 アクエリアが尋ねるとペルセレムが顔だけをムメイジンの背中からだす。


「そっそうですう」


「そっか。だからこの魔力がなんなのかわかるわけね」


「はい。ものすごい魔力ですう」


「ええ。ものすごい魔法使いがこの先にいるかも知れないわ。もしかしたら、クライシスハンターかもね」


「え? なぜそうなるんだ?」


 キイが思わず尋ねる。


「アクエリアがいうのもわかるなあ。もうすぐアメシスト国内だし、クライシスハンターがこの山を探索しててもおかしくないなあ」



 アクエリアの変わりにアレックスが舗装された道の向こう側を見ながら答える。


「そうか? たぶん違うと思うぞ」


 キイは不機嫌そうにアレックスをみる。


「なぜ? 君は会ったことがあるのか?」


「ないよ」


「なら、何故そう思う?」


「なんとなくだ。なんとなく違うんだよ」


「それじゃあ、理由になってないぞ」


「じゃあ、あんたはクライシスハンターだという理由をもっているのか?」


「それは簡単さ。この山にも“魔王の残党クライシス”が存在しているからさ」


「はあ?」



「そう。俺たちはクライシスが存在しているかもしれないダンジョンに挑むつもりなんだ」


 いつのまにかアンラッキーのメンバーがアレックスの周りに集まっている。彼らは自信たっぷりな表情をキイたちに向けている。その反面、キイたちは彼らの言っていることがうまく飲み込めずに呆然と立ち尽くしていた。




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