アイシアとアレックス2

 買い物へ行くと出てきたものの特に早急に必要というものがあるわけではない。ただムメイジンのなにか含んだような笑顔を見ていると居心地が悪く感じられてつい部屋を出たという感じだ。


 街はシャルマン国の首都でも繁華街に位置する場所であるためにかなりのにぎわいを見せており、国民の姿のみならず他国からやってきた旅人の姿も見受けられる。


 しばらく歩いていると本屋が見えた。


 少し前に本泥棒騒動を起こした店でいまでも閉店が続いており、人で賑わう街の中でそこだけが人を寄り付かないようにケージさえもしてあるのだ。ほかに何かがあったのかと思える物騒さがあるのだが、実際は店長のヒストリアがいつか再開するから誰も入れないようにしておいてとキイが本屋全体を“施錠”したのである。


 とはいえ、キイの“施錠”は完璧ではない。慣れた盗賊なんかがいたらあっけなく“解錠”して侵入されてしまうレベルだ。逆をいえばそこらの盗人には効果的ということにとなるが、キイのレベルは若い頃にアメシスト王国の王家で鍵師として働いたという父には遠く及ばない。


 かといって父に追いつきたいとは思わない。それよりも冒険者としてレベルをあげて目的を果たすことが大切なのだ。


 キイはだれもいない本屋の前に立ち止まり、看板をしばらく見上げていた。


「キイくんだったかな?」


 すると話し掛けるものがいた。


 振り向くとそこにはアレックスの陽気な笑顔があった。


「アレックスだっけ?」


「そうだよ。この前はどうも。あれから大丈夫だったかい?」


「何が? 俺達は戻っただけだよ。いたって平和に終わったよ。それよりもあんたたちはあれからどうしたんだ?」


「そうか。俺達もこの通り無事さ。クライシスハンターへの報告も終わったからいまごろ処置に向かったんじゃないかなあ」


「ということはクライシス発動してたのか?」


「ああ、ちょっとヤバい感じだったよ。ある程度は俺達が対処したけどやはりただの冒険者だから限界がある。だから任せたのさ。でもいずれは」


「クライシスハンターめざしてんの?」


「もちろんさ。魔法を使えるものは必ず目指すものさ」


「あんたも魔法使えんの?」


「一応ね。君も使えるでしょ。ブックトラップの家で使ってただろ?」


「あれは魔法とはいえるものじゃないぞ。ただ鍵を開けただけだからな」


「そう? 鍵魔法というやつでしょ」


「そうともいうけど、俺達鍵師からしたらパズルをとくようなもので魔法とは呼べない」


「ふーん。鍵師って異質な存在だな」


「異質?」


「ああ。魔法であふれるこの世界の中では異質だと思うよ。そういえば鍵師といえばカリスの青い花にも出てるんだよな」


「は? そうなのか?」


「確か出てたはずさ。どの場面かわからないけど鍵師が出てたはず」


「そうなのか」


「おーい! アレックスーー!」


 すると遠くからアレックスの仲間たちが呼ぶ声が聞こえてきた。


「ああいまいく」


 アレックスは仲間たちのほうから再びキイをみる。


「じゃあ、俺はいくよ」


「新しい冒険者か?」


「もちろんさ。早くレベルあげたいからな」


「そっか」

 

「じゃあね。アイシアのことを頼むよ。もしもアイシアになにかあったら許さないからな」


 アレックスはそのままキイに背を向けて仲間たちの下へと戻っていく。


「シスコンかよ。 こわっ」


 一瞬浮かべた真顔にキイは身震いした。








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