前夜祭10

 前夜祭は豪華な食事と運営者側のささやかな余興で進まれていた。


 そんな中でキイとムメイジンは隅っこでのんびりと食事を取っている。


「うまい!! もうさいこーだぜ!」


「ハハハハハ。君はよく食べるねえ! ハハハハハ」


 キイを挟むような形で座るムメイジンとルイと名乗る冒険者はなんとも上機嫌に食事を食べている




 テーブルには8人がけで見慣れない冒険者たちが座り食事をしている。会話はあまりない。同じ冒険者同士なのだから共通の話題があるはずなのに、ムメイジンが「うまいうまい」と連呼し、ルイが豪快に笑うだけだ。いや妙に個性を出している二人に対して同席者が呆気にとられているのだ。とにかく二人をチラチラ見ながら食べ物を口に頬張っている。なんとも変な雰囲気になっていた。


 これは自分がどうにかするべきなのだろうかとキイは考えてみるもなにも浮かばない。


「よお」


 するとキイたちの部屋を仕切っていたダイチ=アオサワという男が話しかけてきた。


「楽しんでいるか?」


 そういいながらキイとムメイジンの間に割り込むように椅子をいれると座り込む。


「ああ! サイコーだぞ! とにかく飯が美味しい! とくにこれ! 唐揚げと肉じゃがはさいこうだぜ!」


「そうか、よかった。実はこれは俺の親友の嫁さんが作った日本料理さ」


「日本料理? その嫁さんっていうのは異世界からきたのか?」


 ルイが尋ねる。


「そうだ。俺の同級生でもある」


「同級生? あんたも向こうの世界からきた感じ? 俺と同じ転生者?」


 ルイはダイチ=アオサワの髪を指さしながらいった。


「いや、どちらかというと転移だな」


 ダイチ=アオサワは髪を触りながら応えた。


 そんな会話についていけずにいるキイは思わず周囲を見回す。同席者も同じらしい。いったい何の話をしているのだろうかと首を傾げている。


「ごめん。知らない人にとってはつまらない話だったな」


 そんなキイたちの視線に気づいてダイチ=アオサワは後頭部を撫でながら謝る。


「ようするにあなたもラノベラーってことであってるのか?」


「そうさ。つうか最初に言ったと思うけどなあ」


 キイがいうとダイチ=アオサワは話を聞いてなかったのかと自分の後頭部を撫でながら困惑する。


「しつもーん!」


 するとムメイジンが手を挙げる。


「ところで、ラノベラーってなに? 転生と転移ってどう違うの?」


「いい質問ですね〜」


 ダイチ=アオサワはムメイジンを指差す。


「ラノベラーはあっちの世界からこっちの世界へやってきた人間のことさ。転生はあっちの世界で死んでこっちの世界で生まれ変わった事。ようするに魂のみがこっちに来たってことかな」


「転移は?」


「あっちの世界で死なずに来た。ようするに肉体ごとこちら側にきたってことさ。前者はあっちの世界とは姿形が違うが後者は変わらない」


「でもあんたは変わってるよね。見たところ日本人ぽいのに目の色と髪の色はあっちの世界でみない。単純にカラーリングとカラコンしているのか?」


 ルイが指摘するとダイチ=アオサワは自分の青い前髪をみる。


「いや。こっちの世界に来たら勝手に変わってた」


 ダイチ=アオサワの言っている意味が理解できずに首をかしげるムメイジンたちだったが、生まれも育ちもこの世界であるキイには思うところがあったらしい。


「そういえば時々こっちの世界からあっちへいって戻ってきた人がいるという話を聞いたことあるなあ。もしかして、あんたってそのパターン?」


「まあ、そういうことかな。さてと別のテーブルの奴らにも挨拶してくるよ。じゃなあ。ロックウェルの坊主」


「え?」


 怪訝に思うキイをよそにダイチ=アオサワは椅子ごと別のテーブルへと行ってしまった。


「なんだ? あれ?」


 ムメイジンがダイチ=アオサワを指さしながら尋ねる。


「知らねえ」


 キイも首をかしげる。


「ふふふ。なんか面白そうなおっさんだぜ」


 そういったのはルイだ。


 パーティはそれからまたしばらく続いた。














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