前夜祭11

 色別のパーティが終わりを告げると同時にキイたち冒険者は元の玄関ホールへと転送された。各部屋もかなりの数いたがそれを一堂に介するとホールが埋め尽くされるほどの数になる。


 改めて今回の大会への参加者の多さに圧倒されてしまう。


「帰ってきたあああああ!! キイいいいいい!」



 元の玄関ホールへと戻った瞬間にリドルがキイの顔に飛びついてきた。


「キイ! キイ!」


 リドルは涙目になりながらキイの顔に必死にしがみつく。


「痛い! 痛い! ちょっと離れろよ! リドル」


 キイは強引にリドルを剥がすと両手で体を掴む。


「どうしたんだ? なぜ泣いてんだよ?」


「だって、だって、皆消えちゃったんだもーん! ぼくだけ残して消えちゃったんだぞ!」


「はあ? お前魔法陣に入らなかったのか?」


「入ったよ。でも全然反応しなかったんだよ。なんでだろうって考えているうちに次々と冒険者たちが魔法陣の中に消えていってさ。気づけばぼく一人になってたんだよ〜」



「反応しなかった?」


「知らないよ! 何度も試したけどだめだったんだよ!」


 そういいながらリドルが再び泣き出す。どういうことなんだとキイよりも先に戻っていたショセイへと視線をむける。


 ショセイはどうしてでしょうねと首を傾げながら本をめくり始める。


 果たしてショセイが持つ本にヒントが書かれているのだろうか。


 キイが疑問に思ってしまうほどにショセイがいくつもページを捲ってうねいている。


「珍しいからさ」


 すると別の方向から声が聞こえてきたので振り向いた。


 そこにはアイシアとアレックスの姿がある。


 そう告げたのはアレックスの方だ。


「ドラゴンが冒険者になるなんて聞いたことないから反応しなかったとかじゃないのか? 」


「その可能性はありますね。でもドラゴンも“色”があるはず。むしろドラゴンのほうが人間よりも明白になってるはずですよ」


 ショセイは再び本へ視線をむける。



「確か“色”って血筋が関係していること多いんだよな。こいつの場合は血筋が半分ずつだぞ」


「え?」


 キイの言葉にショセイが顔を向ける。


「それってどういう事ですか?」


「言葉通りさ。だよな? リドル」


 キイが振り向くとリドルは首を縦にふる。


「ぼくはファイアードラゴンとフィングドラゴンのハーフなんだ」



「へえ〜。なんか珍しいですね」


「そうか?」


「そうですよ。ドラゴンってこの世界で一番血筋を大切にするっていわれている。だから別の種族同士が交わることがないんですよ」


「リドル〜〜! 我が友よおおお!」


 ショセイが話していると突然前方から飛んでくるものがいた。


 リドルは慌ててキイの後ろに隠れると、その物体はキイのすぐ前に止まり着地する。



「なぜにげるのだ? せっかく我が友になってやったというのになぜにげるのだ?」



 みるとそこにいたのはキイたちのアジトに前夜祭の招待状を持ってきたライオンのぬいぐるみだった。相変わらずふてぶてしい佇まいでキイを見上げている。



「別に友達になった覚えないぞ! 君が勝手に言い寄ってきただけじゃないか!」


 キイはキイの肩にしがみついたまま訴える。



「なにをいうか! 君が寂しそうにぽつんといたから我が仲良くしてやったのだぞ。うまい飯も食わせてやったではないか! ならもう我らは友! 親友だ」


「ご飯食べさせてくれたことはありがたいけど、親友になった覚えはないヤイ!」


「またまたそんな照れなくてよいぞ! 我が友よ。さあもっと楽しもうではないか」


 ライオンのぬいぐるみは両手を広げる。


 キイは彼らのやりとりからなんとなくなにがあったのか想像した。


 おそらくキイたちが消えた後にひとりぼっちになったリドルに話しかけたのはこのライオンのぬいぐるみなのだろう。それからご飯をごちそうしてもらい遊ぶことになったのだが、どうやらリドルはライオンのぬいぐるみに振り回されるばかりで大変な思いをしたということだろう。


(どんなことされたのかはわからねえが、かなり大変だったんだろうなあ)


 涙目になっているリドルを撫でながらキイはライオンのぬいぐるみのほうをみる。



「何だ!?」やる気か? 我とリドルの仲はさこうとしても無駄なことだ! 我らは深い絆で結ばれているのだぞ! ハハハハハ」



「はい! そこまでですよ! キング」


 そのときであった。ライオンのぬいぐるみの体がヒョイと引っ張り上げられる。



「すみませんね。お騒がせしました」



 そこにいたのは前社長のアランだ。


 引っ張り上げられた瞬間、ライオンのぬいぐるみは突然おとなしくなってしまった。


「さあ。行きますぞ」


「はい」


 ライオンのぬいぐるみはそれ以上騒ぐことなくアランに掴まれたまま階段の方へといってしまった。



「なんだ? あれ?」


 キイはリドルの方を見る。


「あいつ苦手だああああ!」


 リドルは泣きじゃくるばかりだった。本当になにがあったのだろうと考えながらキイはよしよしとリドルの頭を撫でてやった。










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