ドラゴンを連れた鍵師と読書家は本を探しに行く6

 そういうことでキイたちは山の麓の街で食事を摂ることにした。食事といってもなにせ貧乏パーティだ。いつものように街でも一番安い店を選んで食事を取ろうとした。


「なあ、なあ、たまにはいいもの食わねえか?」


 すると突然ムメイジンが提案した。


「そんなお金あるわけ……」


 アイシアが拒否しようとしたのだが不意に思い出したかのようにバッグの中をあさり財布を取り出した。


「そうだったわ。前金もらってたのよ」


 アイシアの財布の中にはキイたちがお目にかかったことのないような大金が入っていたのだ。


「おおおおお!」



 キイたちは思わずのぞきこむなり感嘆の声を上げる。


「たくさん入っているわね」


 アイシアは何度も確かめる。


 本当に見たこともない量の金貨が入っている、


 これは今回の冒険を依頼してした本屋の店主ヒストリアから受け取ったものだった。最初は遠慮したのだが、彼女が半ば強引にもたせたのだ。


 たくさんのお金を使ってまで本を取り戻したいらしい。


 そういうわけて受け取ることにした。


「よし。じゃあ、今回だけよ。すこし贅沢しましょ」


「よっしゃあ」


 一番喜んだのはこのパーティのなかで食いしん坊なムメイジンであることはいうまでもない。


 そういうわけでいつもよりもランクの高い飲食店へ向かうことにした。



 とはいってもなにせ貧乏パーティ。いったいどんな店へいけばいいのかわかるはずもなく、ずいぶんと繁華街を彷徨っている。


 その間もムメイジンとペルセレムの腹の虫は鳴り止まない。


 ふつうに安い店でよくないかと思い始めたころになにやら群がっていることに気づいた。


「なにかやっているわね」


「なんだろう?」


「行ってみよう」


 そういってキイたちは人々が集まっているほうへと向かう。


「おおお」

 

 集まりに近づくと歓声と拍手が巻き起こる。どうやら群れの中央で催し物があっているようだ。


「なにかやっているのか?」


「サーカスだよサーカス」


 ムメイジンが尋ねると民衆の人が応えた。


 その言葉にキイはステラで出くわしたサーカス一団を思い出す。彼らがここまで来ているというのか。あれから数日経っているからありえなくはない。


「おもしろそう! みようぜ!」


 ムメイジンがノリノリで民衆をかき分けながら、群れの中心の方へと向かう。


「おい! ジン!  まてよ」


 それをキイたちが追う。


 そのうちにキイの視界にピエロがみえてきた。ピエロが大きなボールにのってジャグリングをしているところだ。


「これは魔法ではございません。れっきとした芸でございます」


 そう付け加えながら、次々とパフォーマンスを繰り広げるピエロやさまざまなかっこうをしたサーカスの一団。どれも魅力的で拍手が巻き起こる。


 そんななかでキイはただピエロのみをみていた。パフォーマンスをおえて後ろに下がったピエロはテントの前に立ち止まると振り返った。


 その瞬間、随分距離があったはずのピエロがキイの直ぐ目の前にいたのだ。


 キイは驚きのあまり尻餅をついた。


「ああ、ごめん。なんか君僕の方ばかりみていたからちょっと脅かしてやろうと思ったんだよ。ごめんね」


 そういってペロッと舌を出しながら、手を差し伸べる。


「こっちこそ済まねえ。なんか前にあったピエロかと思ったんだよ」


 キイがいうとピエロは首を傾げる。


「たぶんぼくじゃないよ。サーカス団なんていくつもあるから違う団のピエロだったんだろうね」


 たしかに違う。ピエロの格好はしているが体格も顔立ちも違う。あのピエロは子供のようにも大人のようにもみえて存在自体があいまいなもののように思えたが、こちらのピエロははっきりしている。


「でもほんとうに脅かして悪かったよ。お詫びになにかおごらせてくれ」


「別にいいよ。大したことねえんだからよ」


「ちょっと、ライアン! なにしているのよ」


 するとサーカスの仲間らしきレオタード姿の女性がこちらに近づいてくる。


「つぎやるわよ。ピエロなんだからしっかりしたさい。これ終わったら冒険があるんだからね」


「あっごめん。姉さん」


 ライアンと呼ばれたピエロは女性のほうからキイをもう一度みる。


「本当ごめん。じゃあね」


「ああ」

 

 そういってライアンと呼ばれるピエロは舞台と方へと戻っていき、レオタードの女性とともにパフォーマンスを始めた。












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