鍵師はドラゴンの子供と出会う5 はなさないで

「連れてきたぞ!」


 ディーンと名乗るドラゴンを見つけたキイはすぐにリタと呼ばれるドラゴンのもとへと連れて行った。


「リタああああ!」


「おお。ぴったりではないか! よくやったぞ。3分以内で我が夫を連れてきたではないか」


 名前を叫ぶ夫を一瞥したのみでリタはキイを褒め称える。思いっきり視線をそらされたディーンはそのまま前のめりに倒れ込んでしまうと地響きがなり、キイはバウンドして尻餅をつく。


「いてえ。いや、明らかに3分以上かかってるけど。おそらく三十分は経ってると思うんだけど」



「そうか! そうだったな! 人間の感覚と我らドラゴンの感覚は違うのだな。お主ら人間の言う十五分は我らにとっては一分という感覚なのだよ」


「はあ? なんだよ。それ?  じゃあそんなに急ぐ必要はなかったじゃねえかよ!」


「そういうでない。我としては一分でも早く来てほしかったのだよ」


 リタがディーンの方を見ると、ディーンは頬を染めて目を緩ませている。


「そうかあ。それほど我に会いたかったのだな。我が妻リタよ」


「そうではない」


 リタがあっさりというと再びディーンがぶっ倒れる。そのたびにキイは地震に襲われることになるのだ。


「勘弁してくれよ。まじで。ああ、もう俺行くよ。要は済んだよな」


 そういって立ち上がるとその場を立ち去ろうとした。


「まてえええ! 人間。うっ」


 リタが大声を張り上げたかと思うと苦しそうにうずくまる。


「リタ!? どうした?」


「うっ産まれる! ディーンよ。頼む」


「わかった。おい、そこの人間」


 ディーンはキイの方を振り向く。


「なっ、なんだよ。まだなにか要か?」


「もう一つ頼まれてくれぬか? これから我が妻が子を生む」


「だから急いでつれてきたんだけど」


「そこでお主に頼みだ。子供が産まれたらすぐにその子とともに走れ」


「はあ?」


「とにかくこの森から出るのだ。わかったな! 人間」


「意味がわからないんだけど」


「うっ、産まれるうううう!!」



 そうこうしている間にリタは思いっきり力み始める。


 程なくしてリタの中から何かが出てくるではないか。


「うばああ! 出られた!」


 出てきた途端にそれは立ち上がり大きな声で叫んだ。


「なんか言ったぞ! って生まれてすぐに喋れるのかよ!」


「当たり前ではないか」


 ディーンがいう。


「そうだとも。人間はしゃべれんのか?」


 リタが尋ねる。


「しゃべらねえよ。だいたい泣くだけだぞ!」


「ほほお。人間とは変わっているなあ」


「俺からいえばあんたたちのほうが変わっているよ」


「おしゃべりはここまでだ」


 リタはそういうと生まれたばかりの子供のドラゴンを掴むなりキイへ投げつけた。


 子供のドラゴンは突然のことで小さな羽をばたつかせている。そのままキイの顔に直撃し、腕の中にストンと落ちる。


「なんだよ。突然」


 キイは子どものドラゴンを落とさぬように両腕に収めたままリタとディーンをみた。


「その子の名はリデルだ」


「頼んだぞ。人間。絶対に離すなよ。さあ、走れ、すぐいかねばやつらがくる」


「やつら?」


 ドドドド


 キイが疑問を投げかけるとどこからともなくなにかの足音が聞こえてくる。


 一つ2つではない。


 無数の足音だ。


「来たか」



 ディーンたちは足音のするほうを睨みつけた。


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